「社会の価値の測り方」—(見える化)で地域を豊かにする–2026年6月15日 吉澤有介

枝廣淳子著、岩波新書、2026年1月刊  著者は、東京大学大学院教育心理学専攻修士過程修了。環境・エネルギー・地域経済・幸福度・レジリエンス・サステナビリテイなどの分野で、研究、教育、実践により「持続可能で幸せな社会」を目指しています。大学院大学副学長・教授。未来創造部代表取締役社長。幸せ経済社会研究所所長。著書に「地元経済を創りなおす—分析・診断・対策」、「好循環のまちづくり」(ともに岩波新書)、「農業が温暖化を解決する」(岩波ブックレット)など多数。
「星の王子さま」は、「本当に大切なものは、目に見えない」といいました。確かにその通りですが、著者は、1980年代にトヨタなどが提唱した「見える化」の概念を活用して、経済・教育・自治体などに加えて、「生態系サービス」の研究を展開しました。本書では、多くの実践事例を挙げて、「幸福(ウエルビーイング)社会」の実現に迫っています。
大阪送風機製作所は、大正8年創業、従業員90人の、船舶・産業用送風機メーカーです。若社長就任を機に、次の100年に向けてのビジョンをつくりたいとの依頼があり、令和6年、社員15人が著者の拠点熱海で合宿しました。その中の「環境チーム」では、脱炭素のテーマに取り組み、2050年までにネットゼロを目標として、主力製品であるブロアのライフサイクルアセスメント(LCA)で、現状を把握しました。材料調達から廃棄までの流れを追い、CO2の排出量を算定すると、全体の99&が、船舶の航行時の電力で発生しているとわかりました。直ちにモーター効率の改善に着手して、8%の削減に成功しました。製品をすべてこの次世代型に切り替えると、年間でCO2排出量が6万t削減できるのです。主要取引先ABB社から高く評価され、世界的な組織に加入して、海外展開も見据えています。
2015年のパリ協定で、気候変動は、「環境の問題」から「経済と社会の問題」に変わりました。企業の行動も変化して、環境への取り組みが、単なる「コスト」ではなく、「経済合理性のある戦略」になったのです。ここでCO2排出量の「見える化」が登場しました。その最強の手段がLCAです。どんな製品でも、原材料から生産工程を経て、消費者に渡り、いずれ廃棄されます。サービスも含めて、すべての過程で環境負荷が発生するのです。
農業現場では、みどりの食料システム戦略に基づいて、環境負荷低減の施策を「見える化」する取り組みを進めています。ラベル付き農産物として、販売額が伸び、取引先も増えてきました。セイコーエプソンでは、使用済みの紙をその場で再生紙にする、新しい乾式製紙機を開発し、独自の評価システムを導入して、海外の学会に発表し、国際的認証を得ています。
地域経済の活性化のためには、経済が右肩上がりなら、分業が有利でしたが、人口減少時代では、地元経済だけで自立しなければなりません。地元の力を評価するには、「産業連関表」が有効でした。自分たちの意外な強みも発見できます。環境情報と掛け合わせると効果が倍増します。気仙沼市では、震災後の復興で産業連関表による活動に力を入れています。
本書の「見える化」事例は、実に多彩です。それぞれが、進んで「変化の理論」を実践していました。見えない「社会的価値」を測ることが求められています。かっては詩人や哲学者の領域であった「幸せ」についても、さまざまな測定方法が提案されていました。「了」

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