「自然資本とデザイン」—地域の風景と生きていくための思考法—2026年6月25日 吉澤有介

奥田悠史著、築地書館、2025年12月刊  著者は1988年、三重県生まれ、信州大学農学部森林科学科在学中に、バックパッカーで世界を一周して、様々な異文化を体験。卒業後、編集者、ライター、デザイナー、カメラマンを経て、仲間と「森をつくる暮らしをつくる」を企業理念とした「やまとわ」を創業してデイレクションや、クリエイテブを担当。「森林デイレクター」を自称しています。
「自然資本」とは、一般に「森林、土壌、水、大気、生物資源など、自然によって形成される資本 」を指しますが、著者は、これらの「資本」が生み出す仕組みや、風景なども含めて、私たちの命や暮らしを支える、最も根源的な資本と考えるようになりました。これまで人類は、自然資本を「資源」として一方的に収奪してきました。その結果、さまざまな環境問題を起こしているのです。自然を使い捨てる経済は、すでに限界に達しています。
著者は、目の前の現実に取り組み、地域の自然資本と共存するビジネスを目指しました。しかし、大学時代を過ごした伊那谷に住んでみると、人工林に変わった森は、急峻な地形で、過密に放置されたまま、殆ど健全性を失っていました。マツ枯れも蔓延して、手が付けられません。問題が大きすぎたのです。ここで平川克実さんの著書「21世紀の楕円幻想論」に出会いました。「贈与経済と貨幣経済」、「有縁と無縁」を論じて、社会がどんどん貨幣経済の、中心が一つしかない真円の一点に集中してゆくが、もう一つの中心を持つ楕円的な社会であれば、多様な人が生きやすくなるというのです。こんな森にしたのは誰かのせいだが、積極的に自分が責任を取ってみよう。著者は、もう一つの中心をつくることを決意します。
「豊かな暮らしの提案を通じて、豊かな森をつくる」ことにしました。肩の力を抜いて、広い視野から自然や社会を見ると、道は開けます。森林資源を活用する何かを開発したり、森林を活かしたサービスを考えて、企業や行政の方々とデザインを企画しました。まずアカマツが枯れる前に、モノづくりして価値を生むことにして、軽くて曲がった特徴を生かして椅子などの家具や、0,2mの薄い食品包装の経木をつくり、地域のブランドにしました。
ヒントは森の中にありました。地域の価値を見つけるために、「やまとわ」を5人の仲間と立ち上げましたが、今は30人の適正規模です。夏は農業、冬は林業の「農林業チーム」もできました。地域資源をちょうどよく使うには、中くらいの製材所をハブとした、中量生産が向いています。ルッコラを育てて、ソースを開発し、経木のノートは好評です。
著者は、宇宙飛行士の土井隆雄さんと対談しました。土井さんは、日本人で初めて宇宙で、船外活動をしています。木造宇宙船を構想していました。地球環境を、宇宙に広げるというのです。金属製では、宇宙ゴミになったときに環境を汚染します。また木材は放射線の遮蔽性能が高い。樹種はホオノキが最適でした。最初の木造人工衛星は、10 cm角で、京都大学では、セルローズナファイバーを使う研究をしています。月に木を植え、火星の屋外で木を育てる研究が進んでいました。「宇宙木材産業」を構想して、木を宇宙へと発信しています。
著者らの、足元の森に価値をつける活動は、世界の森を守ることにもなっています。日本の里山文化「人と自然の共存」の先進性が、グローバルの課題を解きほぐすのです。「了」

カテゴリー: サロンの話題 タグ: , , , パーマリンク