「多様性は美しい」―――分類からはみ出る愉快な生物の世界-2026年5月1日 吉澤有介

稲垣榮洋著、さくら舎、2026年2月刊  著者は、皆さんすでにおなじみの植物学者です。1968年静岡県生まれ、岡山大学大学院農学研究科修了後、農林水産省、静岡県農林技術研究所を経て、現在は静岡大学教授、農学博士。専門は雑草生態学。著書は「身近な雑草の愉快な生き方」、(ちくま文庫)、「「はずれ者が進化をつくる」、「雑草はなぜそこに生きているのか」(ちくまプリマー新書)など多数。
世界は多様性に満ちています。多様性のある世界は、美しくて素晴らしい。しかし、多様な世界を多様なものとして理解するのは、たいへん困難なことです。自然界には境い目がないからです。どこかに境い目をつくらないと、私たちは自然界を理解できません。そのために人類は、古くからこの多様な世界を、何とか分類しようと試みてきました。私たちの脳は、分類して整理することで、はじめて多様な世界を理解できるようになったのです。分類の仕方はさまざまです。自由に分類してよいのです。これは「考え方」で決まることでした。
生物学では、様々な生き物を分類しています。イヌとネコを辞書でみると、イヌは「食肉目イヌ科イヌ属に分類される哺乳類の一種」で、ネコは食肉目ネコ科ネコ属に分類される動物の一種」とあります。見かけも性格も全く違います。しかし祖先を辿ると、親戚同士でした。共通の祖先は「ミアキス」という動物で、森で生活していました。その一部が、環境の変化で森から草原に移り、集団で狩りをするよう適応して、イヌになりました。一方、森に残ったものは、一匹で待ち伏せして狩りをする、ネコになりました。ブタとウシは、同じ偶蹄目ですが、最近クジラとも仲間であることがわかって、「鯨偶蹄目」となりました。
ヒトとチンパンジーも、共通の祖先から分かれたので、明確な境目はありません。ヒトと植物も、祖先を辿ると、「ルカ」という単細胞に行き着きます。やはり境目はないのです。それでも人は分類します。トマトやメロンは草木性植物なので、果物ではなく野菜です。しかし、イチゴはバラ科で草木性なのに、多年草なので、果物とします。農家の都合でした。
このように分類は自由ですが、生物では、まず動物と動物以外に分けました。二界説です。
やがて微生物が発見されて、五界説が生まれました。「植物界」、「動物界」、「菌界」、「原生生物界」、「原核生物界」の五つです。ここでミドリムシは、「原生生物界」に収まりました。
しかし、今日では、遺伝子を解析して、系統から分類しています。従来は、キノコの仲間は植物とされていましたが、遺伝学からキノコは動物に近いとみられます。ウニがヒトに近いこともわかりました。受精卵は細胞分裂を繰り返して体をつくります。そのとき原口という凹みができて、反対側に貫通して消化器官になります。口が先にできて肛門に向かうのが前口生物、肛門が先にできて口に向かうのが後口生物で、ウニもヒトも後口生物でした。見た目は違っても、ルーツを重視する「系統分類」が、主流になってきたのです。
分類すると、名前をつけます。リンネは、ラテン語で「属名」と「種小名」をつけて「学名」とし、最後に命名者の名前を添えました。「種」は、生物学上の基本単位ですが、変わることもあります。タマネギは、ユリ科からヒガンバナ科に変わりました。私たちも、さまざまに分類されています。しかし、その境い目は、自由に飛び超えてもよいのです。「了」

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