谷岡一郎著、ちくま新書、2021年5月刊 著者は、1956年大阪生まれ、慶應義塾大学法学部を卒業後、南カリフォルニア大学行政管理学の修士課程・博士課程を修了して、ph・D。大阪商業大学教授、同大学学長。谷岡学園理事長。専門は、犯罪学、ギャンブル社会学、社会調査論、著書は「データはウソをつく—科学的な社会調査の方法」、「はじめての刑法入門」(いずれも、ちくまプリマー新書)、「40歳からの知的生産術」、「定年後の知的生産術」(ともに、ちくま新書)、「科学研究とデータのからくり—日本は不正が多すぎる」(PHP新書)など、多数があります。
「悪魔の証明」とは、「(この世に悪魔は存在しない)と主張するなら、それを証明してみせろ」と迫ることです。つまり、「証明が到底不可能な事柄」を「証明せよ」と強要することで、その語源は、ラテン語にありました。中世に使われ出して定着したようです。これは法律に関連して重要な、「挙証責任」が、どちら側にあるかという考え方を示しています。
平成の終わりころ、当時の安部首相が、国会で「モリカケ」問題を追求されたとき、野党は、理事長側に便宜を図っていないなら、それを証明せよと迫りました。しかし、「やっていないこと?」を証明するのは、極めて難しいことです。安倍首相は答弁で、これは俗にいう「悪魔の証明」ではないか、事実上不可能だと述べたことで、一躍有名になりました。
刑事審判では、挙証責任は検察側にあります。訴えられた被告は、「やっていない」ことを示す必要はありません。「あったこと」を証明するのは、比較的容易で、「ポジテブプルーフ」として、警察や検察が担当します。しかし、それを犯罪と認定し、刑罰を科するまでには、厳重な手続きが必要になります。検察官の起訴状には、まず5W1Hが書かれていなくてはなりません。刑事裁判では「検察側にのみ立証責任がある」のです。弁護側は、検察が用意した証拠を、100%確実でないと指摘するだけで、犯罪の立証は却下されるのです。
なぜこれほど厳格なルールがあるかといえば、「国家権力vs個人」の関係になるからで、憲法による個人の権利を守るためでした。刑法は、司法行政官を厳しく戒めているのです。「あったこと」でも、これほど厳格ですから、「なかったこと」の証明、すなわち「ネガテブプルーフ」は、困難を極めます。その挙証責任は、相手を非難する側にあるのです。
「なかったこと」を証明する要素は、大きく分けて「不可能性」、「非合理性」、「間接補強要素」の三つで、それらの抗弁をすれば、「挙証責任」は最初に非難した側に移ります。非難した側は、自分で立証しなければなりません。挙証責任が即座に移行するのです。
本書では、多くの事例を挙げています。「ノアの箱舟」は、あったのか。「マリアの処女懐妊」は真実か。(これは後に死海文書の解読で、ヘブライ語からギリシャ語に翻訳したとき、若い女を処女と誤訳したものらしい)。イエスの生まれはナザレではないのか、聖徳太子は実在したか、などに加えて、国家間では、自国の利益のために「非難が正しくない蓋然性」の事例」がごく普通に行われています。自分に不利なデータや証拠はないものとする、あるいは報道しません。韓国の慰安婦、徴用工問題の虚偽、天安門事件の削除、新型コロナの発生原因秘匿など、内容のすり替えも日常のことです。身の回りにも多くある話でした。「了」
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