「思考の穴」—わかっていても間違える全人類のための思考法–2026年4月25日 吉澤有介

アン・ウーキョン著、花塚恵訳、ダイヤモンド社、2023年9月刊  著者は、韓国の延性大学を卒業後、イリノイ大学大学院で博士、2003年に23歳の若さでイエール大学心理学教授に就任。2022年に社会科学分野の優れた教育に贈られる、イエール大学レックス・ピクソン賞を受賞しました。訳者は、英国サリー大学卒の翻訳家です。
いまイエール大学の学生を夢中にさせている講義があります。著者の「シンキング」という講義で、「思考の不具合」が個々人の生活にとどまらず、さまざまな社会経済的な問題を引き起こしていることを取り上げて、判断力の向上に役立てるので、人気になっているのです。著者の実験的な試みは、戦略的に「論理的思考力」を鍛えるものでした。
誰でも、自分は平均よりも上だと認識する現象があります。自分はできるという、過信のバイアスに捉われているのです。そこで著者は、学生たちに韓国の人気グループBTSの動画を繰り返し見せて、そのダンスを踊れたら賞金を出すといいました。勇気ある10人ほどの学生が手を挙げ、踊り出しましたが、どれもバラバラで、全く出来ませんでした。みんな大笑いです。この現象は、いくら学んでも「罠」に陥ることを示していました。「錯視」とわかっていても錯覚します。これを心理学では「流暢性効果」と呼んでいます。この罠を克服するには、やってみて気づくしかないのです。
賢い人が、自信満々にずれてゆくことがあります。「自分が正しい」という証拠ばかり集めるからです。人間は論理的でも合理的でもありません。不合理は実害を生みます。人はよく関係ないことに罪を着せてしまいます。エビデンスよりも「友達の話」を信じます。「しなかったこと」よりも、「したこと」のせいにしてしまいます。「取り出しやすい記憶」に影響されやすく、「最初に思い込んだこと」を信じ続けようとします。賢いからこそ、進んでバイアスに捉われるのです。事実を「自分の考え」に一致させようとします。常に脳が勝手に解釈しているのです。あえて偶然に身を委ねることも大切でしょう。
人間は、「ネガテブな情報」に過剰に影響されます。同じことでも「切り取り方」で簡単に騙されるのです。同じものでも、「得る」か「失う」かで、価値が変わります。「自分のもの」になった瞬間、惜しくなるのです。「損したくない」から、間違えてしまいます。「不確かなこと」があると、頭がうまく働かなくなります。そのため「確実性の高い」ことを極端に好むのです。人の選択は、「切り取り方」で決まります。ポジテボの質問をするか、ネガテブの質問をするからなのです。複数の方向から考えましょう。その点で、キリストの話術は実に巧みでした。いつも複数のストーリーを通じて、同じ法則を示していたのです。神の御心を伝えるに、絶大な効果を挙げていました。
「未来」は、距離が遠いので、つい軽視してしまいますが、先のことは、できるだけ具体的に想像することです。しかし、自己管理レベルが高いほど、早く老化することもあります。完璧主義だと、幸せになれません。結果だけを見ないで、過程を楽しむことなのです。著者の認知心理学講義は、実に伸びやかで楽しく、自在に展開していました。「了」

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