「この地名が危ない」—大地震、大津波があなたの町を襲う 2026年7月25日 吉澤有介

楠原祐介著、幻冬舎新書、2011年11月刊   著者は、1941年岡山県生まれ、京都大学文学部史学科(地理学)卒、出版社勤務の後、編集・著述・評論活動で独立。「地名情報資料室・地名110番」主宰、正しい地名復興運動世話人。著書に「こんな市名はもういらない」、「この駅名に問題あり」、「地名学が解いた邪馬台国」、「こうして新地名が誕生した」などがあります。
今回の東日本大震災を受けて、全国の自治体では各種のハザードマップの作製が盛んになっています。私たちの祖先は、災害被災地に「ここは危ないぞ」というメッセージを、地名に名付けて、その記憶を遺してきました。著者は、こうした数々の災害と地名の関係を専門として、「災害地名学」を提唱しています。地名には、古代からの国・郡・郷名や現代の市町村、大字などのほかに、450万に達する小字があります。この小字にヒントがありました。
津波の語源にしても、一般には「入江の奥の津(港)に来る大波」という俗説に、地震学者までが捉われています。しかし、和語の「ツ」にも、漢字の「津」にも、その原義には「港」の意味はありません。著者は、多くの古語を辿って、津波とは「波長が長く連なる大波」としました。実際の津波は、三陸のような入江だけでなく、直線状の福島県浜通りを襲い、福島第一原発の大事故を引き起こしました。地名などの語源考察が必須の所以なのです。
福島第一原発は浪江町にありました。「浪江」は古名で、周辺には「牛渡」、「樋渡」、「棚塩」などの地名があります。浪江町の一帯は、かって津波が作った潮入りの湖沼の跡だったのです。なお12㎞南の第2原発は、もっと危ない地域で、大字「波倉」に立地しています。クラは「自然の力によって割れた地」という意味です。鎌倉も古来、津波の常襲地でした。
被害の大きかった仙台空港は、宮城県名取市で、陸奥国多賀城に続く名取川流域にあります。この名取は古来の歌枕で、枕草子で清少納言が、「いかなる名を取りたる?」とありますが、「ナ」は土地で、「トリ」は洪水・津波などによる土地の崩壊を示す地名でした。ここでは数百年おきに、内陸数キロまで押し寄せる津波があったのです。その平野を見下ろす標高45mの丘陵に、雷神山古墳があります。全長168m、東北地方最大の前方後円墳で、4世紀古墳時代前中期の築造とみられます。災害地を美田にした地域リーダーがいたのです。
平成16年、新潟県中越地方に震度7の大地震が襲いました。ここは信濃川地震帶で、文政11年(1828)のM6,9の大地震以来、180年が経過した「地震空白地帯」でした。この大地震では、長岡市妙見地区の県道で、車で走行中の母子3人が、山崩れに巻き込まれました。この「妙見」は仏教用語で、多くは屯倉から出たとされていますが、ここには屯倉はなく、古語の「メゲル」(崩れる)から転じたとみられます。妙高、妙義山、三宅島の類です。地震の直前、国交省はこの道路(国道17号)の危険性をみて、信濃川の対岸に迂回させ、旧道はそのまま県道に格下げしていました。旧道を急いだ母子の悲劇は人災だったのです。
阪神・淡路大震災は、「ナダ」の地名が予告していました。海のナダはナデの意ですが、陸地のナダは地滑り、崖崩れで、ナダレと同義でした。旧国名の阿波、安房も、地震で隆起した地から来ています。歴史的伝統的地名には、貴重な災害記録が込められていました。了

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