「日本人の幸せ」—ウェルビーイングの国際比較(改訂版)– 2026年4月3日 吉澤有介

内田由紀子著、中公文庫、2025年12月刊  著者は、1975年兵庫県生まれ、京都大学大学院人間・環境学研究科を終了して博士(人間・環境学)。専門は社会心理学、文化心理学。スタンフォード大学行動科学先端研究センターフェロー、内閣府「幸福度に関する研究会」、「中央教育審議会」、「総合科学技術・イノベーション会議」委員、日本社会心理学会常任理事などを歴任。現在は京都大学人と社会の未来研究院教授。日本計画行政学会論説賞を受賞。著書は「これからの幸福について」(新曜社)、「引きこもり考」(創元社・共著)、「資本主義と倫理」(東洋経済新報社)など多数。
日頃の暮らしの中で、皆さんはどのようなときに幸せを感じますか。一体、幸せとはどのようなものでしょうか。多くの人は、健康や経済状態、友人との付き合い、あるいは毎日の楽しみを考えるでしょう。それぞれは主観的で極めてあいまいですが、ある程度の確からしさはあります。著者はこのあいまいさにひかれて研究者になりました。明確な定義と測定方法、幸福の感じ方は、文化によって大きく異なり、文化心理学にその手掛かりがありました。
マーカスと北山に、日米の文化的自己観についての論文があります。北米の文化では、個人が主体的に何かを選びとり、個人の中にある特性を原動力として物事を動かし、目標達成感を得るという「相互独立的自己観」があります。これに対して日本では、「相互協調的自己観」があり、人間を理解する上で、個人の内面だけでなく、他者との関わりや文脈・状況で理解するというのです。これは著者が北米での生活で実感したことでした。
幸福の国際比較には、多くの資料があり、日本は「経済状況」のわりに、ランクが低いとみられています。しかし、本当にそうなのでしょうか。幸福の意味は、国によって一律ではなく、時代とともに変わっています。従来の幸福の指標は、経済発展と生活の質の向上をもとにした「生活満足度」を重視する「獲得的な幸福」でした。アメリカの社会心理学の教科書には、「幸福な人とは、若く健康で、良い教育を受け、外向的で楽観的、収入があり、働く意欲が高い」とありました。しかし、これでは日本人にはどうもピンときません。
著者は、日本的な概念による幸福感を「協調的幸福」として、9項目の測定尺度をつくりました。それは「他者との協調・調和」、「穏やかな生活」、「人並み観」に大別され、この概念は、多言語に翻訳されて、アジアや欧州にも広く受けられるようになってきました。欧米では、「覚醒度・興奮度の高い強い感情」を理想としていましたが、脳活動のレベルで、感情を抑制することが難しいので、アメリカの研究者たちが注目したのです。日本人の、穏やかに平静を保つことが、私たちが学習してきた幸福感の続く戦略なのかもしれません、
集団と個人の対立をみた場合、アメリカでは、「個人の幸福の追求は、最終的には社会全体にとっても良い結果になる」と考えられています。一方日本では資源が限られているので、個人が何かを得ると、誰かが困るというゼロ・サム状況を意識して、個人の利益追求が、集団の利益を阻害すると考えてしまいます。ここで成果主義を持ち出すと、社会に不適応を感じて、「自己肯定感」の低い人たちが出てきます。場の状態を良くするには、お互いが主体性を持つことです。人間のあいまいさを認めた、寛容な協調性で、道は開けるのです。「了」

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