「ダムの科学」(社)ダム工学会、近畿・中部ワーキンググループ編 2020年2月10日 吉澤有介

知られざる超巨大建造物の秘密(改訂版)

サイエンス・アイ新書、2019年12月刊   本書は、ダム技術を構成する河川工学、構造工学、地盤工学、環境工学などの各分野を横断して、学・官・民の専門家の連携により、ダムの世界の奥深さとその魅力を、中高生などの若い世代に伝えるために編纂したものです。2012年の初版を大幅に改定しています。
 ダムの語源は、14世紀のオランダの海水をせき止める堤防で、アムステルダム(アムステル川の堤防)、ロッテルダム(ロッテル川の堤防)の都市に名を残しています。
「河川法」では、「河川の流水を貯留し、または取水するために、許可を受けて設置するダムで、基盤から堤頂までの高さが、15m以上のものをいう」とされています。ダムを計画・建設・管理するのは、国交省(直轄ダム)や、地方自治体(補助ダム)ですが、そのほかに電力会社(発電ダム)、水道局(水道ダム)、土地改良区(農業用水ダム)もあります。
 ダムの建設には、場所の選定が重要で、必要貯水量、地形、良質な地盤、上流下流の人家や集落、生態系への影響などを配慮して、①まず道路を建設し、②川の流れを切り替え、③ダム本体の基礎にかかります。ダムには重力式コンクリートダム、アーチ式コンクリートダム、ロックフィルダムなどがありますが、工法は近年大きく進歩しており、振動ローラーで内部コンクリートを締め固めるRCD工法は日本が最初でした。ICTやAIによる施工車両の無人化、ドローンの活用も盛んです。ダム施設の耐震設計には、有限要素法を取り入れ、安全性を確保しています。既存ダムも補強し、ダム施設の診断技術も充実してきました。
 ダムの長寿命化は大きな課題です。コンクリート本体には充分な耐久性がありますが、放流設備に鋼材があるので劣化が進みます。機能的寿命は短いので、更新・改造は欠かせません。それにダムには大量の土砂が溜まります。主な対策としては、掘削・浚渫がありますが、土砂バイパストンネル方式も有効です。洪水時に上流から川の水と一緒にトンネルから下流に流します。またダムの下部に排砂ゲートを設けて、下流に流します。一般にダムの堆砂量は、100年分を予測しますが、国交省によると、2018年3月時点の全国1055か所のダムの、平均堆砂量は7,9 %でした。年平均で0,19 %で、寿命400年に相当します。しかし中部地方では断層などが多いため、堆砂速度はこの約2倍でした。これらの土砂は極力下流の川に戻します。天竜川では、海岸の侵食が30年間で200mも ありました。土砂を流すことは、ダムの寿命を延ばすだけでなく、海岸保全にも効果が期待されています。またフラッシュ放流として、一時的に人工洪水を発生させ、適度に川底を攪乱して、もとの生態系に近づけることも行われています。黒部川中流の「出し平ダム」で効果が確認されました。
 ダムを運用する最新の技術に、洪水調節による防災操作があります。大型台風や豪雨を、高度な降雨予測技術で、事前放流してダムの水位を下げておくのです。これは渇水時にも同じく、ダム放流を事前に節約することで、実際に効果を挙げています。ダムをトンネルでつないでネットワークをつくる技術、ダムをかさ上げして再開発する技術の実施例も増えてきました。本書では、ダムの歴史から最新の技術まで、豊富な話題を提供しています。「了」

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