集英社インターナショナル新書、2018年2月刊
これは興味深い対談集でした。考古学者の岡村さんを迎えて議論しているうちに、考古植物学者の鈴木三男さんも参加します。1万年も続いた縄文時代の、東日本の文化圏が話題の中心でした。遺跡・遺物の最新情報から推論する、合理的で豊かな暮らしが展開します。
ある縄文遺跡から、石皿とすり石のセットが出ました。石皿は硬質砂岩、すり石は安山岩で、石皿の加工のキズで金属器時代より古いとわかります。叩いたりこすったりの痕跡があり、炉の煤もついていました。使い方は、クルミを割り、干したトチの実や、クリ、ドングリなどを粉にする、ジネンジョをすりつぶす、野鳥やウサギを骨ごと叩くこともありました。縄文料理では鍋が定番だったようです。食糧の保存は、まず天日乾燥、炉の上の棚で燻製にする、後期になると塩漬けもあり、クリやドングリは土穴で貯蔵すると、発芽が始まる春まで持ちました。貝塚から大量のカキとハマグリの層が交互に出るのは、集約的加工の証拠です。カキはすでに養殖をしていました。縄文時代には主食と副食の区別もなかった。ドングリよりもクリやクルミが圧倒的に多い。そのためか虫歯が多く見られます。後期のクリの実は現在とほぼ同じ大きさでした。農耕の痕跡はないが、エゴマ、アサ、ヒョウタン、ゴボウ、マメなどが出ています。最近、複数の遺跡でカボチャのタネが出て、問題になっています。
魚では、貝塚から出る頭の数に対して背骨の数が少なすぎました。全部食べたら同じになるはずです。頭は残し、身は干物か燻製にして内陸部へ運んだのでしょう。釣りは非効率でした。ハリがあっても出来がよくない。そうは釣れません。貝塚の土を詳しくみると、イワシなど小魚の骨が多いので、釣りではなく、囲い込み漁や網漁が主だったようです。
氷河期が終わって気候が温暖になると、木の実をつける落葉広葉樹林となり、食べられる野草も増え、海水面が上昇して、浅く豊かな海が誕生します。定住化という大きな変化が起きました。竪穴住居でしたが、屋根には土を被せていたことが、最近になってわかりました。
いわゆる茅葺ではなかったのです。土屋根の家は夏涼しく、冬も保温性に優れていました。
縄文人がヒスイに注目したのは、約7000年前の縄文前期です。産地糸魚川の長者ヶ原遺跡は13Haと広大で、加工技術は高く、流通の拠点でもありました。運ぶ男は貴重な情報源で、各地で歓待されました。実用品の黒曜石と違って、単なる商人ではなかったのです。
生命の木クリは、化石として1憶年前の白亜紀の地層から出てきます。まだ日本列島が大陸の一部だった時代です。縄文時代になって爆発的に増えました。林業の起源です。これは鈴木さんの「クリの木と縄文人」に詳しく、先にバイオマス図書館でも紹介しました。
漆については、岡村さんと鈴木さんの見解が分かれました。岡村さんは、函館や青森の遺跡で出た漆製品が、世界最古の9000年前と確認されたことから、漆は渡来文化ではなく、日本列島発祥としました。8000年前とされる中国よりも技術レベルが高かったからです。しかし鈴木さんは、日本列島に漆の木が自生していた痕跡が全くないことから、大陸からの人為的移植説をとりました。植物学者としての反論です。謎は深まるばかりでした。「了」
-
最近の投稿
アーカイブ
- 2024年3月
- 2024年1月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年9月
- 2023年7月
- 2023年6月
- 2023年5月
- 2023年4月
- 2023年3月
- 2023年1月
- 2022年12月
- 2022年11月
- 2022年9月
- 2022年6月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年10月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2021年1月
- 2020年12月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2020年5月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
- 2019年1月
- 2018年11月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年7月
- 2018年6月
- 2018年4月
- 2018年2月
カテゴリー
タグ一覧
- NPO法人蔵前バイオエネルギー
- ウイルス、ナノサイズの大きさ、細胞を持たない
- テスト実施報告
- バイオエネルギー
- バイオマス発電所
- フォッサマグナ、成因
- ポーラス竹炭
- メルマガ
- 人生
- 仏教
- 再生可能エネルギー一般
- 再生可能エネルギー(バイオマス以外)
- 勉強会
- 吉澤文庫
- 土壌改良効果
- 地政学
- 多数の宇宙、階層構造
- 天守閣、城
- 実用化段階
- 実証段階
- 展示会・講演会レポート
- 市場・経済活動
- 度量原器、精度アップ
- 恐竜、発掘、研究
- 政治・政策
- 文化
- 新コロナウイルス、1929年の大恐慌
- 日本初、大型古墳、但馬
- 有機農法、有害虫、捕獲方法
- 本の紹介
- 森林(含竹林)資源
- 植物、生存のからくり、アジサイ
- 歴史
- 池田古墳、最古の前方後円墳
- 海外情報
- 環境保護
- 生態
- 藻類資源
- 調査報告
- 遺伝子
- 都市の公園の自然
- 都市剪定枝
- 野鳥
- 雑草の多様性、染色体、形態
- 食文化