「ヒトは変なサル」—わたしたちは進化の頂点なのか—2026年5月25日 吉澤有介

中村克樹著、くもん出版、2026年3月刊  著者は、1963年大阪生まれ、京都大学理学部、同大学院を修了して。助教授、国立精神・神経センターを経て京都大学教授。京都大学ヒト行動進化研究センター長。著書に「人生100年時代の脳科学」(くもん出版)などがあります。愉快な挿絵は松尾花、東京大学大学院生です。
ヒトは霊長類で、サルの仲間ですが、ほかのサルの仲間とは、ずいぶん違った変なサルです。ヒトの世界では、あたりまえでも、サルの世界では、とうていありえないことがたくさんあって、サルの仲間と比べると、ヒトの特徴がよく見えてきます。こんな具合でした。
・土踏まずがある足の骨がアーチをつくっているので、強い力を受け止めて、つま先で地面を蹴って跳んだり、しっかり歩くことができます。他のサルには、土踏まずがありません。
・体毛が少ない。一般的な哺乳類は獣(けもの)ですが、ヒトは(けもの)ではありません。
・サバンナで長距離を移動するには、無毛化して汗をかくほうが、有利だったのでしょう。実は、たった一つの遺伝子の変異だけで、無毛化していました。マウスなで実験して確認できました。このわずかな突然変異が、ごく短期間で急速に広まったらしいのです。
・犬歯が小さい他のサルでは、大きく立派な犬歯があります。獲物を切り裂くためでしょう。ニホンザルの犬歯は2cmもあって、噛まれるとたいへんです。ヒトの犬歯が、なぜ小さくなったのかは、まだわかっていません。これはヒトの明らかな特徴でした。
・家族を単位として暮らしている。オランウータンは、繁殖のとき以外は、オスもメスも単独で生活します。チンパンジーやニホンザルは、複数のオスと複数のメスが集団で暮らす「複雄群社会」で、ゴリラは一夫多妻の「単雄群社会」です。ヒトでは、狩猟民族の多くも一夫多妻です。定住するようになった多人数の農耕民族の多くが一夫一婦制になりました。世界的にみると、つい数十年前でも、一夫多妻制の民族が80%もあったそうです。イスラムなどでは、宗教が大きく影響していました。とにかくヒトは、家族をしっかり意識しているのです。
・父親も赤ちゃんの面倒をみる。父親も子育てに参加します。サルの仲間では、一般に父親が誰かわかりません。ゴリラは一夫多妻なので、父親は明らかですが、赤ちゃんは母親が育てます。3歳ころになって、はじめて父親と過ごすのです。ヒトは兄姉も赤ちゃんの面倒をみる「変なサル」でした。利他行動をするのもヒトだけです。
・同種を殺す。サルの仲間が同種を殺す行動で、オスの子殺しがあります。群れの外のオスが、群れのオスを攻撃してその群れを乗っ取ると、獲得した群れのメスの連れ子を殺して、メスに自分の子を産ませるのです。自分の子孫を残す繁殖戦略でした。ヒトにも見られることです。
集団同士で大人が殺し合うのは、ヒトとチンパンジーだけでした。チンパンジーは、縄張りや食物、繁殖相手の獲得で殺し合いをします。ヒトの戦争も同じで、この同種殺しでは、ヒトとサルに共通点がありました。進化の結果なのでしょうか。
一方、ごく近縁のポノボは、平和に暮らしています。メスがオスより上位にあって、発情期でなくとも、年中発情する様子を見せて、オスと交わるので、オス同士の争いが少ないのです。ここに平和へのヒントがあるのかも知れません。
さらにヒトは、ウインクしたり、将来を考えることができる変なサルでした。「了」

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