「進化生物学者、身近な生きものの起源をたどる  」2024年2月5日 吉澤有介

長谷川政美著、ベレ出版、2023年10月刊
著者は1944年新潟県生まれ、統計数理研究所名誉教授。総合研究大学院大学名誉教授。理学博士(東京大学)です。専門は、統計遺伝学、分子進化学。「DNAに刻まれたヒトの歴史」(岩波書店)など進化に関する著書が多数あり、多くの賞を受賞しています。創作した「系統樹マンダラ」は、2021年度日本動物学会・動物学教育賞を受けました。
現在の生きものは、およそ38憶年前に生きていたLUCAと呼ばれる共通祖先から出発した進化によって、枝分かれしながら多様な種として生きています。このような進化の歴史は、「系統樹」として描かれますが、近年ではDNAの塩基配列の情報を使うようになりました。著者は身近ないきものたちを、マンダラによってわかりやすく解説しています。
イヌは、ヒトの「最良の友」といわれます。イヌ科には、ほかにタヌキやキツネやコヨーテもいますが、ヒトの近くにいた、ハイイロオオカミの中からイヌが進化したのです。それも遺伝的に起源は一つだけで。狩猟採集時代の東アジアのどこかで生まれました。祖先は小さな集団で、柴犬、秋田犬などの日本犬は、その中でもとくに古い系統でした
ネコは、ヒトが農耕を始めてから、一緒に生活するようになったようです。貯蔵した穀物を狙うネズミが増えて、それを目当てにヤマネコが集まったのでしょう。ネコ科は、ライオン、トラ、ヒョウなどの大型種と、ヨーロッパヤマネコや、ベンガルヤマネコなどの小型種が、古い時代に分かれました。ヨーロッパヤマネコは5種に分かれましたが、その中のリビアヤマネコから家畜化したのがイエネコでした。これもなぜか一種だけでした。
鳥類は、およそ1万種の大きなグループです。鳥類は恐竜の中から進化しました。非鳥恐竜だけが白亜紀に絶滅したのです。その後の新生代は、哺乳類の時代とも呼ばれますが、現生の哺乳類は6000種足らずで、種数では恐竜の子孫の鳥類に遠く及びません。
スズメ目だけでも、6200種もいます。小さい鳥は、多様な環境でニッチを獲得できるので、種数が多くなるのです。フラクタル現象でした。大陸移動も、鳥類の進化に大きく影響しました。ゴンドワナ超大陸が分裂して、南米、南極、豪州が分離すると、海流が変わって南極が寒冷化しました。鳥類だけでなく、全生物に大きな変化を起こしたのです。
植物では、コケ類が最初に上陸しました。光合成するうちに、混み合ってくると垂直方向に伸びて大型化しました。森ができて、昆虫やトリ、霊長類まで進化して、豊かな生態系が生まれました。リグニンで強化した樹木は、最初は分解する菌類がいないため、枯れるとそのまま地下に埋もれて石炭になりました。やがてリグニン分解菌が現れると、分解されて物質循環が起こり、酸素濃度が大きく変動しました。鳥類は「気嚢」を獲得してこの危機を克服したのです。哺乳類も内温性で、ようやく生き残ることができました。
昆虫では、節足動物が大繁栄しています。顕花植物との共進化は絶妙でした。進化生物学は大きく進化しています。著者は、音楽の起源を探って、進化学的アプローチを試みています。35000年前のホモ・サピエンスが、ハゲワシの骨に穴をあけたフルートが、ドイツで見つかりました。ヒトの内耳構造や、鳥類も持つリズムにも注目しています。「了」

カテゴリー: サロンの話題 タグ: , パーマリンク