「見えない絶景」—深海巨大地形—2023年1月23日 吉澤有介

藤岡換太郎著、講談社ブルーバックス、2020年5月刊
著者は地球科学者で、東京大学理学系大学院出身の理学博士。海洋研究開発機構特任上席研究員を経て、現在は神奈川大学などの非常勤講師。「しんかい6500」に乗船して、太平洋、インド洋、大西洋などに数多く潜航してきました。著書の「山はどうしてできるのか」、「海はどうしてできるのか」などの連作は、すでに皆さんにも要約してご紹介しました。
地球の海で最も深い場所は、マリアナ海溝のチャレンジャー海淵です。これまで人類が到達した最深記録は10916mでしたが、令和元年初日の2019年5月1日、アメリカの海底探検家ヴェスコヴォが12m記録を更新して、10928mに到達しました。海底には、陸上の地形をはるかに超える巨大な海溝や海嶺が連なり、見えない絶景が広がっているのです。
1989年に建造された、日本の「しんかい6500」は、当時世界最高性能の潜航調査船でした。著者は51回も乗船し、とくにインド洋では世界初の調査を行いました。「しんかい6500」は、直径2mのチタン合金の耐圧殻に、パイロット2人と、研究者1人の3人が乗ります。速度は2,7ノット、6500mまでは往復5時間かかり、海底での行動は3時間です。母艦「よこすか」で運ばれて、世界を巡りましたが、広大な海洋のほんの一端を見ただけでした。
そこで著者は、世界の海底をヴァーチャルな調査旅行で、その見えない絶景を紹介することにしました。本書は、最新の地球科学の成果を解説した壮大な夢の海底探検記です。
宮古湾から出発して、まず日本海溝を横断します。ここは著者が以前にフランスの調査船で、実地調査をして、海底でシロウリガイの集団を初めて発見しました。メタンや硫化水素を栄養とする「化学合成生物」です。同時に多量のプラスチックゴミに驚きました。今回は海溝壁に「地震の爪痕」を確認します。日本海溝を渡り切ると、水深5000mの果てしない大平原が広がっています。1年に18㎝の速度で、1,2憶年かけて動いているプレートに、莫大な堆積物が溜まったためでした。そこに突然巨大な台地が現れます。マントルの一部がブルームとなってモホロビッチ不連続面から浮上したスーパーブルームによると考えられています。世界の海に見られ、陸上まで出たのがインドのデカン高原です。さらに進むとハワイです。ホッとスポットから大量のマグマが噴出し、プレートの移動で火山島が連なっていました。北方には天皇海山列があり、プレートテクニクスの生き証人となっていました。
次はいよいよ東太平洋海膨(巨大海嶺)です。海底からの比高3000m、巾500kmの頂上から、地球最大のマグマが吹出して、新たなプレートが誕生しています。西に行けば日本海溝、東に向かうナスカプレートは、生まれてすぐにチリ海溝で沈みます。ごく近いので巨大地震が多発するのです。対して大西洋中央海嶺は巾が狭く、急峻で長大です。バンゲア大陸を分裂させましたが今はおとなしく、プレートの速度は約4㎝/年です。 ただ北緯26度に巨大なケーキのようなTGマウンドがあって、熱水を噴出していました。海嶺や丘の続くインド洋を経て日本に帰ると、南海トラフが待っていました。チリ型の沈み込みが、巨大地震を起こしています。ここでは地球深部探査船「ちきゅう」が大きく貢献していました。
著者は、さらに地球誕生からプレートの形成と沈み込みの、最新知見を解説しています。了

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