「山を買う」福崎 剛著 2021年9月1日 吉澤有介

ヤマケイ新書2021年3月刊

著者は、鹿児島県生まれ、東京大学大学院修了、都市工学を専攻しました。日本ペンクラブ会員で、多くの住宅関係の著書があります。登山歴も豊富で、アイガー、マッターホルン、モンブラン、エトナ火山などに登っています。本書のテーマには一瞬どきりとしました。

最近は山を買う人が増えてきたそうです。山は一般の不動産屋では、売り出していません。

山は、宅地のように情報をオープンにして売買するものではなく、所有者も限られ、これまでは購入する人も稀で、相続するケースが殆どでした。売買する機会は少なく、価格は下がる一方だったのです。そこに「お笑い芸人のヒロシ」が山を買ったというニュースが流れて、情勢は一変しました。3~4年前から静かに、第2次キャンプブームが到来したところに、ヒロシさんが「ソロキャンプ」の楽しさを提案して、大きな反響を呼んだのです。動画の再生回数は7000万回を超え、テレビ番組まで持つようになりました。2019年のことです。

キャンプといえば、家族や仲間と自然の中でのんびり過ごすものでした。クルマの普及で2010年ころからブームとなり、最近では人気のオートキャンプ場で満杯というケースが多くなってきました。週末だけでなく、平日でも予約が取れなくなってきたのです。プライベートキャンプ場を持ちたいというニーズが高まってきました。ヒロシさんの話で、山が数十万円から買えるとあって、山を売買する不動産屋への問い合わせが急増していました。

その上に、新型コロナ禍で都心から郊外や地方に移住する動きが重なりました。これまでの山里エリアは、人々が訪れるもので、豊かな自然を満喫できる非日常の場でした。一方日常は都会の街中にありました。それが逆転したのですから、価値観が大きく変わったのです。

山林を所有すると、大きな満足感、安堵感を持つようになり、仕事にも集中力が出てきます。山で過ごす時間が楽しく、山を育てることに魅力を感じる人もいます。経験者にヒヤリングした事例が多く紹介されていました。目的はさまざまですが、それぞれが満足していたようです。山は豊かな自然の恵みを与え、防災機能も大きく、国土の土台の役割を果たしていますが、ときには災害を起こします。管理状況次第では、山主の賠償責任を問われる場合もあるので、森林組合に管理を依頼や協力をして健全に維持してゆくことが肝要です。

本書では、実際の山の購入方法、その手続きと留意点について、具体的に細かく解説しています。最近はネットで情報が得られるようになりました。不動産売買の先駆は和歌山の「山林バンク」で、山の取引には宅建の資格はいらず、手数料も決まっていないとは驚きでした。森林組合に相談することもできます。チェックポイントは、①現場の確認、②地籍調査、境界線の確認、③土地の用途区分、規制、条例の確認、④道路、電気、水場などのインフラなどの確認などがあります。購入時には印紙税、手数料。購入後には取得税、固定資産税、森林環境税がかかりますが、山は評価額が低いので、比較的に購入しやすいのです。

外国人が水源地の山林を購入しているという話は、実際にはあまりないようです。国としての規制はないものの、各自治体で条例や報告義務などで水資源を守っていました。

山の購入には野生動物の問題もあります。新時代の森林利用の可能性に注目しましょう。了

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