「ビッグ・クエスチョン(人類の難問)に答えよう」(その2)ステイブン・ホーキング著 2020年9月21日 吉澤有介

青木薫訳、NHK出版2018年3月刊

本書では、なぜビッグ・クエスチョンを問うのか?
を論じて、はじめは著者の専門とする宇宙物理学の成果を語り、次第に人類の未来にかかわるものへと進んでゆきました。

その一つが素朴な疑問として、宇宙には人間のほかにも知的生命が存在するのか?と問いかけます。銀河系を探検して見知らぬ生物に出会う可能性はどれだけあるでしょうか。地球上に生命が誕生した経緯を考えると、ほかにも生命を宿した惑星を持つ恒星はたくさんあるに違いありません。ではなぜ地球には誰も来ていないのでしょうか。

生命が自然発生する確率がとても低くて、もし生まれたとしても知性を進化させるところまでゆかなかったのか。または小惑星や彗星の衝突などで、知性が進化しないで終わったのかも知れません。なお考えたくないことですが、生命が形成されて知的進化をしたとしても、その生物系が不安定となり、不幸にも自らを絶滅させる確率もあり得るでしょう。

著者は、宇宙には私たちと異なる形態の知的生命が存在しているのに、これまで見過ごされてきたのではないかと考えて、2015年にブレイクスルー・イニシアチブの立ち上げに参画しました。いま電波望遠鏡による大掛かりな探索が始まっています。

人間は地球だけで生きてゆくべきなのでしょうか。2018年1月、「原子力科学者会報」の世界終末時計の針が、深夜零時まであと2分の位置に進められました。この時計は、私たちの惑星が直面する軍事的あるいは環境的な破滅の危機が、どれだけ差し迫っているかを示しています。これはもちろん象徴的な意味ですが、地球はあまりにも多くの領域で危機に瀕しています。とにかく私たちにとって、地球は小さくなり過ぎました。資源の枯渇、気候変動、人口過剰などの諸問題が山積して未解決のままです。これまでの歴史では、このような場合どこかに植民する場所がありました。しかし今はコロンブスの見つけたような「新世界」はどこにもありません。行くところがあるとすれば、ほかの惑星だけなのです。

次の千年間を考えると、核戦争または環境の大変動で、地球が住めない場所になることはほぼ避けられない。千年は地質学的の時間では、ほんの一瞬です。私たちは出てゆかなければなりません。そのためのテクノロジーはすでに手の届くところにあります。人類は地球を離れる必要があると、著者は確信しています。このまま留まれば絶滅しかないのです。

次第に複雑になる周囲の世界に対処しながら、人類は心と身体を改良して宇宙旅行に挑戦しなければなりません。なぜ宇宙に行くかといえば、宇宙がそこにあるからです。地球にとどまるのは、無人島に漂着したきり脱出を試みないようなものでしょう。もし宇宙に出てゆかなければ、人類に未来はないのです。しかし、人類は地球を離れて長く生きてゆけるでしょうか。太陽系で人間の植民地を作るとしたらまずは月ですが、これはやや小さすぎます。次のターゲットは火星でしょう。すでに多くの情報が得られ、かなりの実現性があります。

さらに思い切って太陽系の外に出てはどうか。イマジネーションと独創性で、光速の1/5の速度で行く宇宙船も夢ではありません。著者の熱い願いが込められていました。「了」

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