「小泉文夫フィールドワーク」小泉文夫著、2020年5月22日 吉澤有介

人はなぜ歌うか     冬樹社198410月刊       民族音楽学者の小泉文夫(192783)、東京大学文学部美学科を出て、東京芸術大学音楽部教授となり、世界各地の民族音楽を五十数か国にわたって調査・研究して、「人間にとって音楽とは何か」を追求しつづけました。本書は、惜しまれて早逝した著者の、講演録やインタビューを集めて収録したものです。著者は講演の名手で、本質的に「語る人」でした。

 音楽のルーツ、原点は、どの国でも子供たちの遊びから生まれています。輪になって「わらべ歌」を歌う。お互いに顔を見ながら拍子を合わせる。手拍子、足拍子は道具を使う打楽器へと発展します。日本の鈴、南方民族の乾燥した木の実などで、宗教儀式に使うようになりました。悪霊を払う働きはどの民族にも共通しています。一方、太鼓は王権と結びつきました。打楽器として最も威力があり、遠くまで届くからです。しかし太鼓は、古代から中世に移るにつれて単なる儀式や社会的な象徴から、音楽的表現として人間の感情や美意識を著すようになってゆきます。

拍子やリズムについては、動物の中にもちゃんと合わせて鳴く鈴虫やカエルがいます。ところが人間には、拍子を揃えることができない人たちがいました。カナダのエスキモーは、二人でさえも拍子を合わせることができません。そして貧しい。一方、クジラをとるエスキモーはよいリズム感を持っていて豊かでした。大勢で力を合わせ、太鼓を叩いて攻めかかります。獲物を捕らえて生きるために、皆で拍子を揃えていたのです。

 また著者は首狩り族の調査に出かけました。そこでわかったことは、なぜか首狩りの上手い部族は歌が上手い。首狩りが下手で狩られてばかりの部族は、歌が下手だったのです。南の島々やマレー半島、ビルマなどで調べてみると、彼らは獰猛でもなければ精悍でもなく、憶病で、デリケートな人たちでした。社会組織は、支配者のいない原始共産制です。なぜ首狩りをするかは、いまだによくわかりません。しかし彼らは首狩りに行く前に合唱します。ハーモニーが上手く合わないときは、逆にやられてしまう。合唱はそれこそ命がけ、真剣そのものでした。音楽は、人間が生きるという、本能的な生存に関係があったのです。

 西洋音楽の特徴はリズムです。その原点は、騎馬民族でした。躍動的な上下動が踊りにもつながりました。上下動のないところに3拍子は生まれません。日本や東南アジアに3拍子はない。農耕民族のリズムは、みな2拍子です。騎馬民族でも、蒙古だけは3拍子がない。その秘密は彼らの馬の乗り方にありました。長距離乗るときは、斜めに乗るため上下動しないからです。ラクダも横乗りで、3拍子はない。なお朝鮮は、騎馬民族で3拍子です。

 また世の中にはさまざまな軍楽隊がありますが、その起源はすべてトルコでした。オスマン帝国の時代に、多くの異民族を征服しましたが、軍隊に入れても言葉が通じません。太鼓とラッパで号令を掛けました。新軍隊イエニチェリを短時間で訓練して成功したのです。

 西洋音楽と東洋音楽の違いについて、著者はさまざまな角度から追究しています。それは歴史的発展の仕方によるものでした。東洋の場合は、諸民族の文化が交流しながら、それぞれが独立した形で発展しました。一方、西洋では音楽の中心が国から国へと移動して、レベルを高めてゆきました。著者は東洋音楽の魅力について、熱い想いを語っていました。了

 

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