地球はなぜ「水の惑星」なのか 唐戸俊一郎著 2019年7月14日 吉澤有介 

- 水の「起源・分布・循環」から読み解く地球史 -

著講談社ブルーバックス2017年3月刊 著者は1949年生まれで、東京大学理学部出身、ミネソタ大学教授を経て、現在はイエール大学教授。地球惑星科学の学際的研究で、日本学士院賞など多くの賞を受賞しています。

地球は「水の惑星」とも呼ばれています。地表の多くが海に覆われているためですが、海水の量は、質量にして地球全体の0.023%に過ぎません。しかしその少量の水が、地球をユニークな存在にしていました。また最近は、地球の内部にも海水の5000倍の水が含まれ、大循環していることがわかっています。それらの水は一体どこからきたのでしょうか。

宇宙形成の初期には、まず軽い元素ができました。宇宙が成熟するにつれて、星が生まれては超新星爆発で死滅することによって、より重い多様な元素が宇宙にばらまかれました。

太陽などの恒星は、それら宇宙空間に漂う気体と塵が、重力により集まって生まれたのです。できたての恒星の周りには、少しだけ残りカスがあって星雲が形成され、惑星の材料になるという林モデルは、惑星形成の過程を体系的に示しました。星雲はその後冷えて凝縮し、無数の微惑星となって互いに衝突、合体して大きな物体になりましたが、化学結合の強さによって組成が違い、太陽に近いと固体の岩石になり、遠いところでは氷になりました。

太陽から離れて温度が下がり、氷に凝縮する境界線(林ライン)は、地球から太陽までの距離の約2.7倍の外側とされていますが、地球には少量ながら水が存在しています。外側から取り込んだのか、もともと内側にも少しはあったのかは、今なお多くの議論があります。

形成途上の地球の表面の大部分は、溶けた岩石で覆われていました。マグマオーシャン(マグマの海)です。その証拠は月にありました。月の地殻がマグマの冷えた灰長石岩でできていたからです。小さな月にマグマオーシャンがあったのは、月が地球に起きた巨大衝突で放出されたことを示していました。マグマの海は鉱物に比べて大量の水を溶かし込みます。もし衝突してきた微惑星に水があれば、かなりの量が溶け込んだことでしょう。マグマオーシャンが冷えて鉱物になると、水は、マントルの深部にあるメルト(溶けた岩石)に入ってゆきます。また同時に水などの大量の揮発性物質が地表に放出されました。海洋や大気の誕生です。その経緯は、古い地殻に含まれるジルコンの分析でわかっています。

海洋や大気は、揮発して消滅するはずでしたが、その後も安定して存在しています。その謎は、地球の深部からマントル対流で水が絶えず地表に供給され、逆にプレートテクニクスによる海洋プレートの沈み込みで、大量の水がマントル深部まで供給されているためとわかりました。全地球規模で物質が大循環する、マントル対流が起きているのです。とくにプレートテクニクスは地球だけにある現象で、たまたま条件が揃って循環を加速していました。すべてが絶妙なバランスで成り立っていたのです。また核にも多量の水素があります。

これら循環現象の解明には、さまざまなモデルが提案されてきました。地球物理学、地球化学、地質学による観測や実験に加えて、地震学による解析も行われていますが、地球内部の様子はまだ殆どわかっていません。「水」をキーワードにした地球惑星科学は、太陽系の他の地球型惑星や小惑星、さらに系外惑星へと、生命の起源に迫るホットな領域でした。了

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