「南極の氷から探る地球大変動」—氷床融解の連鎖はいつ、どのように起こるのか-2026年9月9日 吉澤有介

菅沼悠介著、講談社ブルーバックス、2026年7月刊 著者は1977年長野県生まれ、茨城大学理学部卒、東京都立大学大学院理学研究科で修士、東京大学大学院理学系研究科で博士(理学)。産業技術総合研究所研究員、東京大学大学院理学系研究科特任助教などを経て、現在は国立極地研究所先端研究推進系教授。専門は地質学、古環境学、古地磁気学。海や湖の地層、氷河地形などから、過去の地球環境変動メカニズムを解明する研究を進めています。これまでに南極調査は7回、氷上キャンプは通算150日以上に及びました。北極調査も2回あります。「チバニアン」命名論文を執筆、著書「地磁気逆転とチバニアン」(ブルーバックス)があり、受賞歴多数。
著者は、過去の南極氷床の姿を復元する研究を続け、南極氷床が過去に幾度も大きく変動してきたことを明らかにしました。その融解するときの速度は、様々な要因が重なるので、これまで考えられていたより、はるかに大きく加速度的に進み、海洋の大きな循環を妨げて、地球全体の気候に深刻な影響を与えています。大規模融解はいつ起きるのでしょうか。
2002年2月、驚くべき変化がありました。南極大陸から南アメリカに向かって突き出た南極半島に広がる、「ラーセンB棚氷」が突然、崩壊したのです。棚氷とは、海に張り出し、海面に浮かぶ板のような氷で、衛星画像では、それが割れて無数の氷塊になって海面を覆っていました。およそ東京都の1,5倍の面積の棚氷が、僅か3週間で消えたのです。
衝撃は、さらに広がりました。棚氷が崩壊すると、その背後にある大陸の氷河の流れが一気に加速し、大量の氷が海に流れ込みました。棚氷は、氷河を支えるダムだったのです。
「ラーセンB」は過去1万年も安定していたのに、これはまさに突然の出来事でした。
南極大陸では、夏でも気温は氷点下なのに、氷床は融解してゆきます。その主因は、太陽からの熱ではなく、北大西洋で生まれた地球規模の「海洋大循環」の一部が、深海を南下し、南極の周囲を取り巻く「周極深層水」に侵入し、0℃の暖かさで、棚氷を底面から溶かしていました。この深層水が温暖化の影響を受けて、変化していることがわかったのです。
南極大陸は恐竜化石の一大産地です。今から1憶年前には、シダや針葉樹が茂る「緑の大陸」で、しかもその植生は、他の大陸と同じでした。つまり巨大な「ゴンドワナ」大陸の一部だったのです。約4100万年前に分離し、最初の大規模な氷床が生まれます。気候変動のリズムとともに、拡大と縮小を繰り返してきました。その気候変動は、ミランコビッチが明らかにしています。現在の南極大陸は、平均で約2000mの厚さの氷床で覆われていますが、昭和基地での長期の観測の結果、沿岸部を除けば、氷床内陸の年間積雪量は、10cm以下でした。降水量に換算すると年間100mm以下です。日本の平均が年間約1700mmですから、南極がいかに乾燥しているかがわかります。サハラ砂漠と同じでした。それでも数千mの厚さの氷床になるのは、極低温で雪が解けないからでした。微妙なバランスだったのです。
著者は、氷床の変動を探るために、最先端の計測技術を駆使して、多くの知見を得ました。過去の変動がわかれば、未来が読めるのです。もし南極の氷床がすべて解けたら、世界の海面は58mも上昇します。温暖化は、近未来の「氷床融解の連鎖」を予告していました。「了」

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