「AIにはできない」—人工知能研究者は正しく伝える限界と可能性—2026年7月14日 吉澤有介

栗原 聡著、角川新書、2024年11月刊  著者は、1965年生まれ、慶應義塾大学大学院理工学研究科を修了して博士(工学)。NTT基礎研究所、大阪大学、電気通信大学を経て、慶應義塾大学理工学部教授。同大学共生知能創発社会研究センター長、同大学AIC生成AIラボ長。人工知能学会会長。科学技術振興機構(JST)さきがけ「社会変革基盤」領域研究総括などを務める、日本を代表するAI研究者です。著書に「AI兵器と未来社会キラーロボットの正体」(朝日新書)など多数があります。
AI(人工知能)という単語が登場したのは1956年、ダートマス大学の研究会でした。第一次AIブームの幕開けで、人間の脳の構造をヒントにしたことで、「人を超えるAIが開発される」と、「AIに人が支配される」という懸念がすでに生まれていました。しかし、当時のコンピュータのレベルはまだ幼稚で、インターネットもなく、実用には程遠いものでした。
1980~1990年にかけて、2回目のブームが起こりました。エキスパートシステムが、実用化されたのです。しかし、そこには「常識」という思わぬ落とし穴がありました。人なら誰でも当たり前のことが、コンピュータには、とてつもなく大きな情報量だったのです。
2010年ころから第3次ブームが起こり、現在まで続いています。突如出現した「ニューラルネットワーク型音声認識」の、劇的成功によるものでした。AIは単なる技術ではない、人類の行方を左右し、地球レベルの変革を起こす存在へと変貌しつつあるのです、
このブームは、研究側からではなく、産業側から起こっていました。潜在的に高い性能を持つデイープラーニング技術が、火付け役になったのです。トランスフォーマー技術を加えることによって、大量のデーターがあれば、生成AIは文法によらないまま、流暢に話すようになりました。10の23乗というサイズで変貌したのです。開発したグーグルの技術者たちは危険を感じて、研究中止を主張しましたが、理解されず解雇されてしまいました。
生成AIは、圧倒的な量の文章を読み込んで、的確に要約し、整理し、表やグラフにして、報告書をつくります。人がそれを理解し、何らかの意思決定ができるのです。これまでの作業が、一瞬のうちに終わるので、人は何をしたいのか、何を分析したいのか、得られた結果をどのように判断し、活用するかを考える、新しい能力が問われることになったのです。
生成AIは、数億人の知恵を結集した効率化の極致ですが、さらに先を行くプロセスではありません。人のように「ゼロからの創造」はできないのです。AIによる新しいマンガを製作したことがありました。大量の素案からは良いものができず、クリエーターが、より遠く離れた種を繋ぐとで、奇抜なアイデアが生まれました。今のAIにはできないことでした。
遠く離れた種と種を繋ぐことで、イノベーションが生まれます。この人的ネットワークの構築には、意外に小さな集まりから始まることが、実験で確かめられました。生成AIと壁打ちしていると、思わぬ友人とショートカットで繋がるのです。しかしモラルチェックは欠かせません。人は楽をしたい動物ですが、AIに頼り切っては、仕事を奪われてしまいます。AIは道具であり、その能力を発揮させるのは人間です。近年、協働ロボットが注目されています。人と豊かな交流ができる自律AIのヒントには、「ドラえもん」がありました。「了」

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