「かゆみをなくすための正しい知識」 2026年6月12日 吉澤有介

順天堂かゆみ研究センター高森健二、富永光俊著、毎日新聞出版、2020年12月刊 順天堂大学大学院医学研究科環境医学研究所では、2002年に国の支援を受けて、難治性かゆみの研究を始め、さらなる研究推進のために、2019年、新たに「順天堂かゆみ研究センター」を開設しました。「かゆみ」専門の研究拠点としては、2011年のアメリカが最初で、順天堂は世界で7番目でした。アジアでは初の研究所です。著者の高森さんは、皮膚科名誉教授で同センター長、富永さんは、東京理科大学大学院を出て参加。神経科学が専門です。
かゆくて居ても立ってもいられず、かけばかくほどかゆくなり、痛みよりはるかにつらい。こんな思いは誰もが経験していることでしょう。それでも医療の現場では、「かゆみで死ぬことはない」といわれて、あまり重視してきませんでした。最近になって、ようやく「生活の質(QOL)」が声高に叫ばれ、かゆみの研究が急速に進展するようになったのです。
それまでの研究では、「かゆみは痛みの弱い感覚」という認識が一般的でした。1997年に、ドイツの麻酔科医師シュメルツが、かゆみを伝える神経線維(C線維)を発見して、はじめて「痛みとかゆみ」は別の神経で伝わるとわかりました。C線維の末端は、皮膚の表皮と真皮の境界近くにあります。皮膚が刺激されると、特定の細胞からかゆみ物質(メデイエーター)が放出され、C線維の末端にある受容体に結合して、電気信号に変換されます。その信号はC線維を伝わって、脊髄を通って脳に至り、脳が「かゆみ」が認識するのです。
かゆみの原因の多くは皮膚のトラブルにあります。虫に刺されたり、皮膚の中で炎症やアレルギーが起きたときにかゆくなります。これが「末梢性のかゆみ」で、蕁麻疹や花粉症、乾燥肌なども含まれます。皮膚の中にメデイエーターがつくられていました。その代表がヒスタミンで、治療には抗ヒスタミンが使われます。一方、皮膚には何の異常もないのに、強いかゆみを感じることがあります。「中枢性のかゆみ」と呼ばれ、腎疾患や肝臓が原因でした。この場合には抗ヒスタミンは効きません。難治性かゆみで、アルカロイドなどと同じ物質の「オピオイド」が、脳や脊髄でかゆみを引き起こしたとわかりました。そこで著者らはオピオイドの研究開発に注力し、10年にわたる研究の結果。特効薬の「ナルフラフィン塩酸塩」商品名「レミッチ」が生まれ、透析患者にとっての「夢の止痒薬」となっています。
かゆみを年代別にみると、圧倒的に多いのが高齢者です。歳を重ねると、肌の保湿性が低下して、カサカサの「乾燥肌」になります。抗ヒスタミン薬が全く効かない場合が多い。「老人性皮膚掻痒症」と呼ばれ、かゆみに堪えかねて皮膚科を受診するのです。アトピー性皮膚炎もあって、かけばかくほどかゆくなります。C線維が伸びて知覚過敏になり、老化によって乾燥肌に炎症が加わると、皮脂欠乏性湿疹になります。ここでステロイド薬が用いられますが、感染症などの副作用が出やすくなるので、著者らは新薬を開発、展開しています。
かゆみを防ぐには、普段からの注意が必要です。入浴は、石鹸を使いすぎない、湯で洗い流す程度にします。アトピー性皮膚炎には、紫外線が有効です。紫外線によって、アポトーシスが誘導されるからです。何よりも運動や、好きなことに集中するのが一番でした。「了」

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