田中淳夫著、新泉社、2024年4月刊 著者は、1959年大阪生まれ、静岡大学農学部林学科卒。出版社、新聞社勤務の後、フリーの森林ジャーナリストになりました。「森と人の関係」をテーマに執筆活動を続けています。著書に、「絶望の林業」、「虚構の森」、「森は怪しいワンダーランド」、「山林王」(新泉社)、「森林異変」、「森と日本人の1500年」(平凡社新書)など多数があります。
近年、違法行為で森林を破壊するケースが、世界中に広まっています。それは環境面でも経済面でも重大な事件として、1992年に開かれたと地球サミットでは、森林破壊防止が中心課題になりました。違法伐採の取り締まりと、その木材の取引を止めさせる取り決めをつくることになったのです。日本でもこの違法木材が問題になりましたが、それは輸入材を念頭に置いたものでした。国内林業の木材は、みな合法とみなされていたのです。
しかし、著者は現地を歩いて、日本各地で盗伐が横行していることに愕然としました。
林業界の空気は、2010年ころから次第に変わってきました。国内材が見直されて、高性能林業機械の導入、スマート林業、木造ビルの建設などが進んできたように見えます。ところが宮崎県などの現場には、とんでもない実態がありました。所有権も伐採権もない業者が、無断で伐採する違法伐採により森林破壊が拡大しています。同時に違法とみられるグレー木材の流通も盛んになっていました。森林法があっても、現実には伐採届などの条件は、殆ど確認されていません。警察も行政も順法姿勢が緩く、対応は消極的なのです。
もともと盗伐には、長い歴史がありました。日本書紀によると、天武天皇が676年に飛鳥川上流の山の伐採を禁じる法令を出しています。戦国時代には木材は最大の軍需物資として、江戸時代には建築ブームもあり、森林伐採が進んで山は荒れ、山崩れや洪水の被害が出て、森林管理が厳しく行われるようになりました。尾張藩の「木一本首一つ」は有名です。しかし日常的に山に依存する地元住民には知活問題でした。各地の盗伐は盛んで、秋田藩などでは、半ば公認しています。明治維新は森林破壊を助長させました。入会権も曖昧で、境界線もいい加減、近代に入っても、地元民による盗伐が続きました。
最近の事例はより悪質です。宮崎県では、所有者の知らないうちに、林道際を残して裏山はすべて伐られていました。森林組合も絡んでいて、高価なハーベスターで伐りまくったのです。これは補助金で購入した機械でしょう。事件が発覚しても、関係者の言い分は、勝手なものでした。警察は被害届を受取らず、民事を勧めますが、地元の係争は、山村社会で嫌われます。鹿児島県では、大手会社が盗伐していました。誤伐との主張を覆し、ようやく和解して、山主は僅かの補償を得ましたが、稀有な例でした。この大手会社は、宮崎県でも盗伐していた常習犯でした。ところがこの会社は、何とグリーンウッド法の登録を受けていたのです。国が認めた合法木材として、全国の市場に流していました。
2017年、宮崎県の山主4家族が、はじめて盗伐被害者の会を結成しました。記者会見して、行政に情報開示を請求するなどの活動を行い、会員数は次第に増えています。盗伐を防ぎ、林業を健全にすることは、国土だけでなく、人の心をも守ることなのです。「了」
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