「動物はふしぎ」  2026年9月28日 吉澤有介

—ゴリラと暮らした霊長類学者と、アザラシと泳いだ獣医が語り合う—
山極寿一・小菅正夫共著、ポプラ社、2026年8月刊  著者の山極さんは、1952年東京生まれ、霊長類学者、人類学者。総合地球環境学研究所所長、日本モンキーセンター・リサーチフェロー、京都大学大学院理学研究科教授を経て、京都大学総長を務めました。国際霊長類学会会長、日本学術会議会長などを歴任。主な著書は「暴力はどこからきたか」、「家族進化論」、「ゴリラからの警告」、「共感革命」など多数。
小菅さんは、1948年札幌市生まれ、北海道大学獣医学部卒、獣医師。札幌市環境局参与。旭川市旭山動物園園長として、同園の再建に当たり、日本一の入場者数を誇る動物園に育て上げました。北海道大学客員教授。主著に「動物が教えてくれた人生で大切なこと」他、多数。本書は、共にセカンド・キャリアに入ったお二人の、楽しく愉快な対談集です。
小菅さんは、主に動物園の動物について語ります。とにかく動物が大好きで、好奇心に溢れています。現在も、円山動物園のアドバイザーをしていますが、いつも飼育係に、「AIには動物飼育はできない。マニュアルにない動物の変化に気づいて、動物に感謝されるような仕事にしなさい」と話しています。絵本で育った子どもたちは、動物園で初めて動物に出会います。人間以外の動物を見て世界を知り、動物と対話して同化し、共に生きるという感覚を持ちます。また観察すると、予想外のことが起きたりもします。小菅さんは旭山動物園で、アザラシと泳ぎました。陸では、アザラシたちはすぐ逃げます。陸では動きが鈍いので、人間が怖いのでしょう。しかし、小菅さんがプールに飛び込んだら、すぐにワーと寄ってきました。水中なら彼らの世界で、自信があるのですね。彼らの好奇心は格別です。そこで直径1,5mの円柱の水槽をつくりました。アザラシは、入念に点検すると
楽しそうに入ってきて、小菅さんをじっと見ています。円筒水槽は、この動物園の一番の名所になりました。
山極さんは、野生動物と人類を語ります。1980年にルアンダの森に入り、2年間一人でゴリラと暮らしました。ゴリラたちに挨拶し、ゴリラの声で答える日々でした。野生の動物は「目の前に起こっていること」だけがすべてです。起きたことを、瞬時に解釈して対応することが得意なのです。先のことまでは考えません。しかし人間は、言葉と道具を発明して、見えないものも想像するようになりました。社会的想像力が、進化のカギだったのです。
サバンナに出たら、危険が一杯です。人間は、安全な隠れ家に家族を残して、食べ物を探しに出かけ、持ち帰ります。お互いの行動を期待し、想像したのです。火を使うことで、食べ物も食べ方も広がってゆきました。一般に動物は、食べ物には保守的です。動物園で一番困るのは、エサを食べさせることでした。子どもは、母親が教えたもの以外は、決して食べません。食に対する強い好奇心は、人間特有のものでした。人類は、アフリカを出て世界に拡散します。五感で世界を捉え、自然と対話してゆきました。私たちは身体で世界とつながってきたのです。しかし今日では、脳だけで世界が理解できると思い込んでいます。ヴァーチュアルな空間に、情報だけでつくられた論理が支配しています。しかし
世界の現実は身体で感じて、初めてわかります。「人間ならざるもの」をも見直してゆくことなのです。「了」

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