「ネコひねり問題」を超一流の科学者たちが全力で考えてみた 2024年1月14日 吉澤有介

グレゴリー・J・グバー著、水谷淳訳、ダイヤモンド社、2022年5月刊
著者は、1971年アメリカ・イリノイ州生まれ。シカゴ大学などで物理学を学び、現在は、ノースカロライナ大学の物理学、光科学の教授です。無類のネコ好きで、いまも10匹のネコと暮らしています。本書は、初の一般向け科学書だそうです。

ネコはおかしな動物です。単独で待ち伏せし、相手の行動を予測して狩りをします。生まれつき遊び好きで、好奇心が強い。それだけ知能が高いのです。なかでもよく知ら
ているスキルが、どんな姿勢で高いところから落ちても、必ず足から着地するという、驚くべき能力でした。ネコの落下問題には、哲学者デカルトや物理学者マクスウエルも注目しています。しかしその実態が知られたのは、1894年のフランスの生理学者マレによる連続動体写真でした。ここであらためてアカデミーに実証的な議論が巻き起こったのです。著名の数学者ギユーは、ネコは落下するとすぐに後肢を伸ばして前肢を折りたたみ、上半身をひねって地面に向け、続いて後肢を折りたたんで前肢を伸ばし、下半身をひねって正しい方向に向けている。これは上半身、下半身ともに慣性モーメントをうまく調節しているためとしました。角運動量保存の法則や、面積定理までが議論され、何と地球の揺動問題とも関連していました。数学者ペアノは、「地球の極の移動」に関する論文で、ネコにヒントを得たと謝意を表しています。
1905年、アインシュタインの相対性原理が発表されて、物理学は大きな衝撃を受けました。そこでまた自由落下するネコが問題になったのです。落下して無重力状態にあるネコは、どのようにして正しい位置を知るのでしょうか。神経科学における立ち直り反射の研究が盛んになりました。ネコは目隠しされても、正常に着地します。頭が回転することで、一連の自己受容反射が起きるとする生理学者もいましたが、実験により否定されます。数学者によって、上半身の回転と下半身の回転が互いに打ち消し合うことで身体の向きを変える、「ベンド&ツイスト・モデル」が提出されました。
しかし、まだ落下し始めたネコが、どうやって上下の方向を知るのかはわかりません。1960年代になって、英国の生理学者ブリンドリーが、ネコは反射的に重力の方向を記憶するという仮説で実験を繰り返し、ようやく一部を確認しました。当時はすでに、NASAで宇宙飛行士の無重力状態への影響が検討されていました。ネコの宙返りが参考にされましたが、それでもまだ問題は残ったままでした。現在は、ネコの落下問題を、幾何学的立体の位相として捉える試みが進行中です。ネコの位相を、球面を使って表現するものですが、量子物理学からの論文もあり、1999年に岩崎敏洋が、また2015年にはメキシコの研究者も、画期的な仮説を出して話題になりました。
一方、ロボットネコの開発も進んでいます。1992年、信州大学の河村隆が、宙返りネコを発表しました。ネコの秘密は、ロボット工学の究極の目標の一つなのです。了

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