「SDGsな野生動物のマネジメント」—2022年12月10日 吉澤有介

—狩猟と鳥獣法の大転換—羽澄俊裕著、地人書館、2022年2月刊
著者は、1955年生まれ、東京農工大卒、環境庁「森林環境の変化と大型野生動物に関する基礎的研究」プロジェクトに、研究員として参加しました。1983年に野生動物保護管理事務所(WMO)を設立、東京農工大客員教授を経て、現在は神奈川県など各種検討会委員。博士(人間科学)。「けものが街にやってくる」(地人書館)など、多数の著書があります。
日本列島には、6種の大型野生動物が棲んでいます。明治以来の近代化は、自然とともに生きてきた人々の暮らしを大きく変えました。乱獲と動物愛護、開発と自然保護に揺れて、現在の野生動物問題は、過疎が根源にあります。その実情を個別に見てゆきましょう。
{カモシカ} 国特別天然記念物に指定され、厳しく保護されてきましたが、1970年代に入ると、林業被害が続出するようになりました。詳細な生息数調査の結果、被害者団体、保護団体、学術関係者と行政が激しい議論を展開し、1979年、文化庁、環境庁、林野庁による三庁合意により、特別天然記念物の種指定を地域指定に切り替えて、保護地域以外での個体数調整が認められました。これは野生動物マネジメントの大きな転換でした。
{シカ} 戦後の拡大造林によって、伐採跡地、新たな植林地、幼齢林などがモザイク構造となって、シカにとって好都合な環境が出現しました。加えて気候温暖化で冬の積雪が少なくなり、それまで越冬できなかった東北や北陸でも、分布が拡大してゆきました。森林の下層植生が食べつくされて、地面が露出し、雨滴が地面を直撃して土壌が流され、さまざまな生物が棲めなくなりました。シカはさらに山に登り、高山植物を食べ始めました。希少な植物群落が危機に晒されています。行政の対応は後手に回りました。神奈川県の丹沢山地の被害も大きく、対策として柵による植生保護と、捕獲によるシカの密度抑制を進めました。その組織的対応は、かなり先進的でしたが、まだ実効を挙げるまでには至っていません。
{イノシシ} 現在の分布は、本州、四国、九州の全域で拡大しています。雪の多い地方でも、過疎になった無雪地帯に避難して生き続けているのです。昭和までは年6万頭の捕獲で抑え込んできたのに、現在は年60万頭を捕獲しても、なお増え続けています。耕作放棄地や竹林を渡り歩き、市街に出て生ゴミの味を覚えました。神戸では人の買物袋まで狙います。東日本大震災の帰宅困難地域では、人家に住み着いていました。感染症も心配です。
{サル} 寒冷地適応を獲得し、北海道を除く全国に分布を拡大しています。中部山岳地帯の3000mにまで出没して、食害が目立ってきました。日本の「サル学」は大きな功績を挙げましたが、サルの群は、環境変化によって過疎化した農村の農作物、果樹などを食べ、人里に定着するようになりました。そのため非狩猟獣の問題が大きく浮上してきたのです。
{クマ} 行動圏が広く、生息密度が低い。自然環境への依存度が高いので、北海道のヒグマも本州のツキノワグマも、レッドリストに登録されました。木の実が不作になると、人里に大量出没し、駆除数が増加します。人の安全と個体数の管理は、今も難題なのです。
これらの野生動物と人との適切な棲み分けを実現するため、本書では、これまでの鳥獣法を科学に基づくマネジメントへ転換すべく、種々の具体的な方策を提案しています。
                                  「了」

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