著者は、1944年生まれの著名な宇宙物理学者です。京都大学理学部物理学科卒、同大学院理学研究科を修了しました。名古屋大学名誉教授、総合研究大学院大学名誉教授です。「物理学と神」、「宇宙論と神」、「科学の限界」、「科学者と軍事研究」、「司馬江漢」など多数の著書があります。「科学の考え方、学び方」では、講談社科学出版賞を受賞しています。
江戸時代に移入した「蘭学」は、人々に、多種多様な人間がこの地球上に住んでいること、広大な新しい世界があることを伝えて、華々しい文化革命を引き起こしました。この新しい学問は、①語学、②医学、暦学、本草学、博物学などの自然科学分野、③国際情勢、地理学、地誌学などの人文科学分野、④技術に関する分野という広範囲にわたり、初めは実利として受け入れましたが、次第に天文学、窮理学(物理学)や博物学などの、純粋な知の分野に発展してゆきました。人々は、学問の面白さを知って、貪欲に吸収していったのです。
これには8代将軍徳川吉宗による、キリスト教関連以外の洋書輸入解禁政策が大きく貢献して。18世紀半ばから19世紀前半にかけての、ほぼ100年間の「蘭学の世紀」となりました。それ以前にも、すでに長崎通詞たちがオランダ人と通商交渉を行っており、医学書などの翻訳や編纂をしていましたが、「蘭学」として公認されて、総合的に発展したのです。
幕府は青木昆陽らに蘭語の学習を命じましたが、最も影響力があったのはやはり長崎通詞で、大通詞の吉雄耕牛の「オランダ学」は、訪れた江戸人たちを強く刺激しました。
自然科学の通詞の先達は、本木良永でした。早くから翻訳に専念して研鑽を重ね、地球図説や天体観測による航海術などを翻訳し、さらに代表的翻訳書「太陽窮理了解説」で、コペルニクスの地動説を、太陽中心説として日本で最初に紹介しました。天文学の用語に、恒星、惑星、彗星などの訳語を造語しています。写本は広く流布して、大きな影響を及ぼしました。
同じく通詞仲間であった志筑忠雄は、蘭語・蘭学に通じ、理系に強く、その上に和漢の文才がありました。オランダ語の研究書10種、世界地理・歴史関係で6種、天文学、物理学、数学で11種の著作を遺しました。1690年に出島に来たケンペルの「日本誌」を抄訳して注釈を加えた「鎖国論」で、鎖国を造語して、鎖国政策を正面から論じています。また彼は「天動説」、「地動説」という言葉を発明しました。本木説を継承して、原文の「太陽中心説」を「地動説」として、中心にこだわる西欧思想に対して、相対的な宇宙論を展開したのです。ケプラーやニュートン力学を紹介し、引力、遠心力、重力、真空、分子など、多くの物理用語を造語しました。天文学・物理学入門書の「暦象新書」の翻訳は大きな功績でした。
江戸の高名な絵師であった司馬江漢は、強い好奇心で見聞した「地動説」や「宇宙論」を、広く世間に広めました。著者は「江戸のダ・ヴィンチの型破りな人生」を上梓しています。
また山片蟠桃は、豪商「升屋」の番頭で、浪華の学問所「懐徳堂」で蘭学を学び、志筑の「鎖国論」と「地動説」に刺激されて、「夢の代」を著し、壮大な宇宙論を展開しました。太陽を恒星の一つとみて、宇宙には無数の恒星と、それぞれに惑星と衛星があり、地球と同じく生命に溢れているとしました。現代にも通じる、世界に先駆けた宇宙論でした。「了」
-
最近の投稿
アーカイブ
- 2024年3月
- 2024年1月
- 2023年12月
- 2023年11月
- 2023年9月
- 2023年7月
- 2023年6月
- 2023年5月
- 2023年4月
- 2023年3月
- 2023年1月
- 2022年12月
- 2022年11月
- 2022年9月
- 2022年6月
- 2022年4月
- 2022年3月
- 2022年2月
- 2022年1月
- 2021年12月
- 2021年11月
- 2021年10月
- 2021年9月
- 2021年8月
- 2021年7月
- 2021年6月
- 2021年5月
- 2021年4月
- 2021年3月
- 2021年2月
- 2021年1月
- 2020年12月
- 2020年11月
- 2020年10月
- 2020年9月
- 2020年8月
- 2020年7月
- 2020年6月
- 2020年5月
- 2020年4月
- 2020年3月
- 2020年2月
- 2020年1月
- 2019年12月
- 2019年11月
- 2019年10月
- 2019年9月
- 2019年8月
- 2019年7月
- 2019年6月
- 2019年5月
- 2019年4月
- 2019年3月
- 2019年2月
- 2019年1月
- 2018年11月
- 2018年10月
- 2018年9月
- 2018年7月
- 2018年6月
- 2018年4月
- 2018年2月
カテゴリー
タグ一覧
- NPO法人蔵前バイオエネルギー
- ウイルス、ナノサイズの大きさ、細胞を持たない
- テスト実施報告
- バイオエネルギー
- バイオマス発電所
- フォッサマグナ、成因
- ポーラス竹炭
- メルマガ
- 人生
- 仏教
- 再生可能エネルギー一般
- 再生可能エネルギー(バイオマス以外)
- 勉強会
- 吉澤文庫
- 土壌改良効果
- 地政学
- 多数の宇宙、階層構造
- 天守閣、城
- 実用化段階
- 実証段階
- 展示会・講演会レポート
- 市場・経済活動
- 度量原器、精度アップ
- 恐竜、発掘、研究
- 政治・政策
- 文化
- 新コロナウイルス、1929年の大恐慌
- 日本初、大型古墳、但馬
- 有機農法、有害虫、捕獲方法
- 本の紹介
- 森林(含竹林)資源
- 植物、生存のからくり、アジサイ
- 歴史
- 池田古墳、最古の前方後円墳
- 海外情報
- 環境保護
- 生態
- 藻類資源
- 調査報告
- 遺伝子
- 都市の公園の自然
- 都市剪定枝
- 野鳥
- 雑草の多様性、染色体、形態
- 食文化