—北欧先進国「バルト海の乙女」の800年—
著者は、津田塾大学大学院出身で、同大学助教を経て常盤短期大学キャリア教養学科准教授。フィンランド史と国際関係学を専攻して、フィンランドに関する多くの著書があります。
フィンランドは北欧の一国で、東はロシア、西はスウエーデン、北はノルウェイに接しています。国土は、日本より若干小さい33,8万平方キロメートルで、その四分の一は北極圏にあり、国土の形から「バルト海の乙女」とも呼ばれています。山地の多い隣のスウエーデンやノルウェイに比べて、フィンランドは平地が多く、国土の7割は森林に覆われ、1割は10万にも及ぶ多数の湖水で占められています。その「森と湖の国」に、人口は550万人(2016年)で、日本の北海道程度ですから、人口密度の低さがわかるでしょう。
21世紀に入って、フィンランドの世界の評価は、極めて高くなっています。北欧の一国として、福祉が充実し、男女平等で教育レベルが高い。ムーミンやサンタクロース、サウナ、「北欧インテリア」などの好イメージに加えて、IT産業が盛んです。ノキアは携帯電話で一時は世界を制覇しました。現在でもベンチャー企業が活躍しています。2016年現在での一人当たりGDPは、世界の17位の4,3万ドル、日本は22位の3,8 万ドルでした。
しかしフィンランドの歴史は、有史以来東西の強国に挟まれ、波乱に満ちたものでした。先史時代をみると、1万年前までは最終氷期の氷河に覆われていた国土に、南や東など多方面から人々が移住してきました。近年の遺伝子研究で、フィンランド人は他のヨーロッパ人とは異なるという結果が出ています。言語学的にも、他の北欧諸国と異なるウラル語族のフィン・ウゴル語系に属し、民族のルーツは東と西に揺れて、今でもわかっていません。
フィンランドという地域は、13世紀から600年にわたり、スウェーデン王国に組み込まれていました。キリスト教化が進みましたが、王権の勢力争いで何度か戦場になりました。
バルト海の覇権争いにも巻き込まれ、19世紀からはロシアの統治下に入りました。ロシアの大公国として、次第にロシア化が強化されてゆきました。ところが1904年に日露戦争が勃発し、帝政ロシアが弱体化すると、フィンランド国内でも反ロシアの動きが高まり、シベリュウスの「フィンランデイア」が初演されて、その荘重な曲は愛国心を強くかき立てました。1914年の第一次世界大戦に続いてロシア革命が起き、その混乱に乗じて1917年、ついにフィンランドは独立しました。内戦を経て、1年後ようやく共和国が成立したのです。
経済面では、製紙・パルプ産業で発展しました。北欧型福祉、女性の登用、文芸の興隆が進み、1935年には北欧諸国の中立主義と連帯しました。しかし、そこにナチスが登場したのです。ソ連とドイツはポーランドを分割し、ソ連はフィンランドを狙いました。フィンランドは果敢に戦いましたが、そこにドイツ軍が勝手に参入し、ソ連に侵攻しました。フィンランドは、やむを得ずドイツ陣営に加わることになったのです。大戦終了後、辛うじて独立は守りましたが、東西どちらにつくかが問題でした。ケッコネン大統領は、ソ連との友好を維持しながら、西側に接近しました。巧みな「サウナ外交」で、中立的な立場を確立したのです。教育の改革、工業化、福祉、デザイン、ITへの進展は、実に見事な展開でした。「了」
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