「日本人だけが知らない砂漠のグローバル大国UAE」加茂佳彦著 2021年9月20日 吉澤有介

講談社+α新書、2017年7月刊

著者は、東京大学工学部都市工学科を卒業して外務省に入り、アマースト大学を卒業後、在外公館に勤務し、各国の総領事を歴任して、UAEで2012年から3年間、日本の特命全権大使を務めました。これまでの中東のイメージとは異なる、新鮮な経験をしたのです。

日本で中東といえば、石油を産出する砂漠の国で、紛争が長引き、テロ事件が頻発して難民が流出する、不穏な地域という印象が強く刷り込まれています。ところが、もう一つの驚くべき顔、世界の最先端をゆくグローバル大国UAEがありました。その超近代的都市では、治安が良く、清潔で、豊かな緑に囲まれ、世界中のあらゆる商品があり、世界中からきた外国人がお互いに力を合わせ、のびのびとUAEという国を動かしています。

UAEは石油の国ですが、石油を元手に大きな成長を遂げてきました。とにかく世界一が目白押しです。世界一高いビル(ドバイ地上160階、高さ828m)。世界一大きいモール(ドバイ)。世界一高い懸賞金の競馬(ドバイ)。世界最大の政府系投資ファンド(アブダビADIA)などで、外国人居住者比率も世界最大(約90%)です。それでも人口の合計は1000万人にも達していません。つまり自国民だけでみれば100万人しかいないのです。

UAEは1971年に建設された、七つの首長国からなるごく新しい連邦国家です。その首長国を列記すると、アブダビ、ドバイ、シャルジャ、ラスアルハイマ、フジャイラ、ウンマルクワイン、アジュマンで、それぞれに同じ名前の首都があり、首長と皇太子がいます。

そのうちアブダビが国土の85%を占めて、首長が大統領、ドバイが副大統領兼首相になっています。アブダビが石油の富で政治、経済の基盤を固め、ドバイは地の利を生かして貿易、観光のハブになりました。お互いにライバルであり、良いパートナーとなっているのです。

UAE人には、数千年に及ぶ遊牧民(ベドウィン)の、伝統と文化が深く根づいています。イスラム以前からの血が色濃く流れているのです。砂漠の厳しい自然に生きるためには、優れた指導者の果敢な決断が不可欠でした。指導者は、最後まで一族の面倒を見ます。砂漠で困っている人を助け、名誉を重んじ、賢く、自由に生きる価値観は、ごく自然のことでした。

気質は、実際的・実利的で柔軟です。人間関係を重視し、情に脆い。権威には従順で肩書には弱い。もてなしや贈り物が好きで、人種的偏見はありません。誇り高く愛国心が強い。

イスラムですので、ラマダン(断食月)がありますが、明けると豪華な祝宴が開かれ、社交の場となります。またマジリスという皇太子などが主催する寄合があり、一般の人びとや外国人も直接VIPに挨拶します。顔見知りになればビジネスにも良い機会になるのです。

UAEには、日本からの巨額の石油代金がADIAに流入していますが、日本には還流されていません。石油をほとんど買わない欧米諸国に流れているのです。人的交流に圧倒的な差があるからです。日本は、UAE の創成期から今日まで原油を買い続け、さらにプラントやインフラを構築して、同国経済に莫大な貢献をしてきました。それが急成長する同国のグローバル社会の恩恵を、ただ傍観しているのはいかにも残念です。小売業が進出しはじめてはいますが、日本企業のさらなる積極的な人的進出を、著者は強く願っていました。「了」

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