「樹木土壌学(Arboricultural Soil Science)の基礎知識」堀 大才著 2021年9月10日 吉澤有介

講談社、2021年7月刊        著者は、日本大学鳥獣医学部林学科の出身で、現在はNPO法人樹木生態研究会の最高顧問です。長年にわたり森林、公園や環境緑地などの土壌改良の世界に深く関わってきました。

近代的な土壌学は帝政ロシアの地理学者ドクチャーエフ(1846~1903)によって創始されました。それまで地質の一部とされてきた土壌を、鉱物と生物(植物、動物、微生物)、さらに気象が相互に作用してできる、地質とは全く別な生きた世界であるとしたのです。

岩石は、風化によって細かく砕かれ、岩石→礫→砂→微砂(シルト)の順に進み、最終的にコロイド状の粘土になります。しかし、そのままではいくら細かくても岩石であって、そこに生物(有機物)が介在して、はじめて土壌という生物と無生物の中間体になるのです。

日本に分布する土壌の分類については、農学系と林学系で若干の違いがありますが、林野土壌では、ポドソル、褐色森林土、赤・黄色土、黒色土、暗赤色土、グライ、泥炭土、未熟土の8分類としています。これらの土壌型に対して土層の堆積状態も大きな影響を与えています。同じ場所に堆積したもの、高地から風や水で運ばれてきたものなどがあります。

森林は、喬木、灌木、蔓、草木、蘚苔類、藻類などの多様な植物の集団で、膨大な量の有機物を生産し、蓄積しています。樹木が生活するためには水が不可欠ですが、日本のように雨の多い地域でも、樹木は多大な努力をして水を集めています。とくに傾斜地では雨はすぐ表面流出するので、土壌の中に滲み込み、保たれ、地下水となって、毛管現象で上昇して樹根に届ける仕組みがなければ、樹木は生育できません。そこで土壌と岩盤の保水力が重要になるのです。まず地表の植物の堆積物と、それが微生物によって分解された腐植がスポンジとなって吸水し、土壌中の細孔に流して、新鮮な酸素とともに岩盤の亀裂を通じ、地下水脈を涵養します。その条件をすべて備えているのが、よく発達した森林土壌といえるのです。

森林生態学的にみると、広葉樹と針葉樹の最も大きな違いは、斜面における根の張り方にあります。広葉樹は斜面の上方に広く扇型に根を伸ばし、樹体を引っ張るようにしているのに、針葉樹では、逆に谷側に根を伸ばして、樹体を下から支えます。この根形の違いが、斜面の表層土壌を保持する機能の差となり、崩壊を防ぐ機能の差として現れます。広葉樹林のほうが土壌崩壊は少ない。しかし針葉樹林でも、適正密度なら崩壊を防ぐことは可能です。

緑地では、樹木育成のために有機性廃棄物を、土壌表面からの蒸散抑制や、雑草防止に利用することがあります。街路樹などの剪定枝をチップにして土壌表面に播いたり、小径に敷いたりするのです。この方法は、枝葉を焼却しないで有効利用する意義はありますが、その反面、重大な欠点があることに注意しなければなりません。生の有機物、とくに木片や樹皮などの木質有機物を、大量に土壌表面に敷くと、さまざまな障害が発生する可能性があるのです。土壌中の木質有機物は、腐朽菌によって徐々に分解されますが、さまざまな土壌伝染性病原菌の温床になりやすい。ひとたび侵入されると、防除は極めて困難です。害虫もいて、大きな樹木を枯らすこともあります。これは完熟堆肥化によって、高熱で病原器や害虫の幼虫、卵まで死滅させ、無害化することができます。樹木土壌学は奥の深い世界でした。「了」

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