「新型コロナとワクチン 知らないと不都合な真実」(その2)峰宗太郎・山中浩之共著 2021年2月22日 吉澤有介

今回の新型ワクチンは、遺伝子工学によってつくられた「核酸ワクチン」です。当初はSARS(重症急性呼吸器症候群2002年)や、MERS(中東呼吸器症候群2012年)向けに開発されましたが、実戦への応用までは進まないまま、中断されていました。そこに新型コロナウィルスの流行が起こった。調べてみると前の二つのウイルスとそっくりだということで、眠っていた技術が急遽見直されることになったのです。ワクチンの検証には通常なら20年はかかります。しかし今回は緊急事態でした。小規模の実験で効果が確認されると、直ちに大規模な社会的人体実験に進みました。10年後の安全性は未確認のままです。ただ効果はかなり大きいものでした。解析の結果は、リスク比95%、つまりウイルスに接した人の発症数が、このワクチンで95%も減少していました。インフルエンザでは3割減程度といいますから、効果のほどがわかります。問題の安全性は、従来型の「不活性ワクチン」と比べてどうか。中国がこれですが、伝統的手法として日本でも開発が進められています。

新型コロナ対策は、熱過ぎず、温過ぎず、のんびり入れる湯加減のような、リラックスできる湯加減が欲しいところです。しかしその「状況をコントロール」できているという科学的な根拠は、まだ誰にも分かっていません。「飛沫感染」と「エアゾル感染」が中心なので、正確なモデルはなくとも、実質を推定して行動に移す、日本の「三蜜」作戦が成功することになりました。クラスター追跡も効果を挙げています。正解はなくても良いのです。

PCR検査については、専門家と一般の認識のズレが目立ちました。PCR検査は、鼻や唾液から採った検体からRNAを抽出し、それをDNAに一度変換して、特異的な部分だけを増殖してその存在が確認されたら、ウイルスがいたと判定します。ステップが多いので作業は大変で、陽性の人を陽性と、正しく判定できる割合は70%程度です。陽性なのに陰性と判断されると「偽陰性」となります。陽性か陰性かを見るには向いていません。しかも発症前は捕まらない。したがって、PCR検査は、感染を疑われる人を陽性と確定するのが望ましい。「検査前確率が高い人」だけを判定する、ベイズ統計学なのです。全員検査は無意味とわかるでしょう。歯切れのよい対策は、現実の一部しか見ない無責任なものが多いのです。

欧米諸国は、初動で大きな失敗をしました。感染者が一気に増加して、医療が崩壊したのです。そこでやむを得ずロックダウンという接触抑制に踏み切りました。長引いては困るので、不安のある人にどんどん検査をする。効率などは無視して政治的判断をしたのです。

新型コロナ禍の中で、多くの記事やワイドショーの発言などがありました。その中から信じてよい情報をつかむには、やはり慎重に、科学的な方法論を飛ばさずに、いつでも鳥瞰的、俯瞰的に自分と周りを見直す姿勢が重要なのです。科学者でもそれができない人が多い。新型コロナ対策の、基本的な情報はもう充分出ています。三蜜を避ける、マスクの着用、距離をしっかり取る、手を洗う、知るべきことを知り、正しく恐れることに尽きるのです。「了」

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