「新型コロナとワクチン、知らないと不都合な真実」峰宗太郎・山中浩之共著2021年2月21日 吉澤有介

日経プレミアシリーズ2020年12月刊

本書は、日経ビジネス電子版に連載された、米国在住の峰先生と編集Yこと山中さんの対談から生まれた最新情報です。峰先生は、京都大学薬学部と名古屋大学医学部を卒業し、東京大学大学院医学系研究科を修了、国立国際医療研究センター病院、国立感染症研究所を経て、現在は米国立研究機関の博士研究員として、多くの医療情報を発信しています。

峰先生は、病理診断医としてアメリカで、今回の新型コロナの現場に動員され、ウィルス免疫学やワクチンの開発研究を行ってきました。病理診断医は「検査」と「診断」が得意ですが、専門家はごく少ないそうです。その病理学者を描いたマンガ「フラジャイル」(恵三郎作)を愛読しているという一面もありました。しかし、ワイドショーやネットには、新型コロナについての理解不足や誤解に基づく、さまざまな怪しい情報が満ち溢れています。

本書ではその真実をいかに知るかについて、わかりやすく丁寧に解説していました。

ワクチンは、ヒトの身体に特定のウィルスに対する「免疫」を付けさせる手段ですが、それと同時に社会が「集団免疫」を獲得するための、ほとんど唯一の手段です。弱毒化した病原体を入れて感染を予防するために、これまでは病原体をいかに弱毒化して、安全性を確保するかが目標でした。これが「生ワクチン」です。しかし、免疫側にすでに準備ができていたことがわかったので、ウイルスをホルマリンなどに漬けて殺し、その成分だけを打つと感染予防ができるようになりました。感染リスクの少ない「不活性ワクチン」の誕生です。

さらに遺伝子操作で、自己複製能力と増殖力を失わせたウイルスに、別の遺伝子を組み込んで体内で増やす、量産が容易でコストも安い、新しいワクチンが開発されました。しかしその「核酸ワクチン」は、理論的に正しく、動物実験では確かめましたが、ヒトでは全く未経験のことでした。そこに新型コロナのパンデミックが起きたのです。この「核酸ワクチン」が新型コロナに有効らしいとあって、各国は飛びつきました。しかし「生ワクチン」のような実績がありません。リスクは承知の上で、国の威信をかけた接種レースが始まりました。人類史上初の試みとしての、大規模な社会的人体実験が、いま猛烈な勢いで進行しています。

一方日本では、「三蜜」という地味な籠城作戦で、一応の成果を挙げてきました。ワクチン成功の報を受けて、そろそろ打って出たいが「副反応」のリスクが怖い。一先ず他国の結果を見るとして、それが倫理的に許されるかどうか。もともと日本は、かって感染症やワクチン開発の最先進国でした。それが再三の「副反応」被害裁判によって、莫大な補償を命じられ、メーカーは撤退し、研究は中断したのです。マスコミが感情的に煽った責任は重大でした。まさに痛恨の極みですが、極端なゼロリスク志向への反省はまだ見られません。ワクチンには「副反応」がつきものです。いま峰先生の最も懸念するのが、過剰反応なのです。

本書では、さらにインフレンザとの比較、PCR検査の考え方と、検査結果の見方で、日本が間違ってはいないこと、ある程度のクラスターを容認する、「三蜜」政策が、世界的に優れていることなど、新型コロナを自分の頭で冷静に考えることを教えてくれました。「了」

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