「グリーン革命」上・下トーマス・フリードマン著、伏見威蕃訳 2020年6月20日吉澤有介

温暖化、フラット化、人口過密化する世界

日本経済新聞出版社、2009年3月刊

著者は1953年生まれで、ニューヨークタイムズ社の著名なコラムニストです。これまでに「レクサスとオリーブの木」、「フラット化する世界」などの世界的ベストセラーがあり、ピュリツアー賞を3度も受賞しています。すでに何回かこの要約でご紹介しました。

本書は、「フラット化」の先を描いた全米ベストセラーで、産業革命の前後で世界が一変したように、「グリーン革命」の前後で世界の支配者が入れ替わるとして、人類が経験したことのない新時代を生き抜くための知恵を示しています。新型コロナのパンデミックを迎えた現在からみれば、すでに古典の部かもしれませんが、なぜかいつもの図書館で数年前に除籍されて、ご自由にお持ちくださいとあったので、ありがたく頂戴した一書でした。何しろ上下2巻の大著です。ツン読のままにしていましたが、今回はじめて読了した次第です。

本書では、温暖化、フラット化、人口過密化する世界で、急激に深刻化している五つの課題に的を絞っています。それは、枯渇しつつある天然資源への需要の増大、石油独裁者への莫大な富の集中、破壊的な天候異変、エネルギー格差による貧困の拡大、生物多様性の急速な破壊です。その解決には、新しいツール、新しいインフラ、新しい思考法、各国の協調による新しい共同作業が必要です。この新時代に入るには、“○○後“という考えを捨て、私たちは”全く新しい○○の前“にいると考える。まさに「グリーン革命」直前にいるのです。

しかし人々に、「エネルギー・気候問題」を意識させるために、これまで形ばかりの議論だけが横行してきました。順序立った解決策の設計が欠けているのです。人間は体重が増えると、体重計に乗らなくなる。誰もが真実を知りたくないからです。それと同じことでした。グリーン革命では、これまで見たこともないような世界になるでしょう。IT革命とET(エネルギー技術)革命が合体すれば、エネルギー・インターネットが生まれます。これはSFや夢の話ではありません。高圧送電線網ではすでに実現し、アタマの良い家電もあります。

クリーンパワーテクノロジーを爆発的に進化させることです。そのためには自由市場の巨大な需要の創出が必須です。現在はまだ優勢な汚い燃料と競争して勝てるように、市場を作り直さなければなりません。サウジアラビアのヤマニ石油相は、かつて「石器時代が終わったのは、石がなくなったからではない」の名言を遺しました。代わりのツールを人間が生み出したからです。私たちの目標は、ヤマニが抱いたその悪夢を実現することなのです。

しかし真のエネルギー・イノベーションは容易ではありません。物理学、科学、熱力学、ナノテク、生物学のそれぞれに、まだ境界線が引かれています。それ以上に私たちはまだ本気でやってはいない。市場を生み出す政策、優遇税制、適切な規制すら設定されていないのです。悪い行ないにブレーキをかけ、わかりやすい規制でわかりやすい価格シグナルを出す。顧客に電力を節減させると、電力会社の利益になるような仕組みはないか。また気候変動は、私たちの「生存問題」です。それらの問題解決には、まず指導者を鍛えることが緊急の課題でしょう。とくにアメリカが遅れている。
著者の痛切な思いが全編に溢れていました。「了」

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