「世界がわかる地理学入門」水野一晴著 2019年11月15日 吉澤有介

気候・地形・動植物と人間生活     ちくま新書2018年3月刊

著者は、京都大学大学院文学研究科教授で、自然地理学を専攻しています。世界には熱帯や寒帯、乾燥帯などの、さまざまな場所があります。その気候に応じて植物や動物が分布し、その自然を利用して、多様な人々が暮らしてきました。本書では、その気候帯ごとに自然の成り立ちを捉え、そこで人々がどのように生活しているかを鮮やかに解説しています。

熱帯雨林気候帯は、赤道周辺で年中高温多湿の地域で、アフリカ、中南米、東南アジアなどに広がっています。ここでは薄暗い森の地表が雨で流され、ラトソルという貧栄養の赤色土壌になっています。その熱帯雨林を取り囲んでサバンナがあり、多くの野生動物が生息しています。ここでも土壌は赤く、栄養は貧弱です。高い気温で岩石鉱物が分解し、鉄分などが遊離して雨で酸化し、さらに微生物の活動が活発のため、腐植が分解されて栄養が残らず、熱帯の農業の生産性は低いのです。草地でも地面が硬く、とても耕作などはできません。

東アフリカの大地溝帯は、人類発祥の地といわれてきました。800万年前頃から巨大断層に沿って山脈が隆起して、ギニア湾からの湿った西風が遮られ、東側の熱帯雨林が乾燥してサバンナとなり、類人猿の一部が地上に下りて二足歩行をするようになったといいます。しかし最近の研究で、この山脈の隆起はヒトの誕生よりも遅く、熱帯雨林もかなり残っていたことが炭素同位体でわかりました。また西側のチャドでも、猿人の化石が発見されています。

約2万年前の最終氷期には、アフリカのほとんどの熱帯雨林が消えて、内陸の僅か3か所だけに生き延びました。この避難場所は、現在のゴリラの分布とぴたり一致しています。その後、熱帯雨林は回復して拡大しましたが、生き延びたゴリラは、その場所に棲み続けていました。温暖になった7~8000年前のアフリカでは、サハラ砂漠に雨が降り、緑に覆われて川が流れていました。砂漠にある洞窟の壁画に、ゾウやカバなどが描かれています。

近年、熱帯雨林は大量伐採が続き、とくにアフリカと南米で著しく減少しました。木材の輸出に、天然ゴムやコーヒー、カカオなどの換金作物がプランテーションで作られました。現地で古くから焼畑で作ってきた農作物が置き換えられ、住民は食糧を現金で買うことになりました。エチオピア原産のコーヒーも、各国ではすべて輸出用で、ニューヨークの先物取引所の価格変動を、まともに受けています。農民たちは大都市に流入して、スラム街ができました。深刻な都市問題になっています。一方、各地の狩猟採集民は小柄で、遊動しながら何でも平等に分配する「平等主義」が徹底しています。今も精霊信仰に生きていました。

乾燥気候帯の砂漠では、サハラも含めて岩石砂漠や礫砂漠が8割で、砂砂漠は2割に過ぎません。砂漠周辺はステップで、肥沃な黒色土(チェルノーゼム)が分布しています。

世界一美しいナミブ砂漠は、砂丘の砂のすべてが石英の粒です。鉄分で赤く輝き、朝方には霧が発生して、動植物の生命を支えています。海岸にありながら寒流の影響で下降気流が生まれて乾燥するのです。季節河川沿いの森に、ナラメロンを採集する砂漠民がいました。

本書では、乾燥地域の狩猟民や、ツンドラや亜寒帯などの気候メカニズム、冷涼地域の農業、山岳地帯の住民の生活なども詳しく述べています、広い世界を知る好著でした。「了」

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