「生きものたちの眠りの国へ」  2024年2月18日 吉澤有介

森 由民著、関口雄佑監修、緑書房、2023年⒓月刊
著者は1963年、神奈川県生まれ、千葉大学理学部生物学科卒のライターで、各地の動物園・水族館を取材し、映画や文学作品の動物観なども併せて広く論評しています。
監修者は、1973年千葉県生まれ、東京工業大学生命理工学部卒、同大学院修了の博士(理学)。千葉商科大学教授。東京農業大学客員教授。専門は動物行動学、行動生理学です。
睡眠研究は日々進展して、「眠りの国」の実態も次第に明らかになっています。本書では睡眠を巡る最新の科学を紹介しながら、さまざまな幻想や夢にも親しみ、生きものたちの「眠りの国」へと誘います。動物たちの眠りは、実に多様なものでした。
睡眠については古代ギリシャの哲学者たちも、さまざまな議論を交わしていましたが、1929年に、ドイツの精神科医ハンス・ベルガーの脳波計の発明によって、はじめて休息と区別される睡眠の実態が、科学的に明らかになってきました。睡眠中の脳波の測定が行われ、アメリカの科学者アセリンスキーが、睡眠には「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」があることを発見します。「睡眠」は腦のコントロールによることがわかったのです。
ここであらためて、ヒトも含めた動物の「睡眠」の意味が問われることになりました。「眠らないとどうなるか」ヒトの断眠記録は、アメリカの高校生が実験した連続11日(264時間)で、意識を失い重態になって中断しました。その後、連続⒕時間眠って回復しました。しかしラットでも死亡が確認されて、ギネスは以後記録を受付けていません。
腦を持たず、ごく簡単な神経系しかない線虫のエレガンスは、脱皮の直前に行動が止まります。その要因となる遺伝子が特定されて、概日リズムに従っているとわかりました。
これも睡眠ですが、レム睡眠とノンレム睡眠が、はっきりしているのは、哺乳類と鳥類だけでした。単なる休息でない睡眠は、主に大脳皮質を中心に、疲れた神経を回復させます。そこには覚醒の抑制や、さまざまな睡眠物質の働きがありました。睡眠は、まず一定期間の深いノンレム睡眠で始まり、その後にレム睡眠が来て、周期的に繰り返します。
鳥類では、半球睡眠が知られています。左右の腦半球の独立性が高く、枝に止まったり、長い渡りのときでも、腦の片方ずつ眠ることができるのです。しかし枝で眠りながら、落ちないように掴まる仕組みはまだ謎です。フラミンゴは片足で眠りますが、これは保温のためで、嘴も羽毛に差し込んで放熱を防ぎながら、高度な腦を休ませているのです。
半球睡眠が初めて発見されたのは哺乳類のイルカでした。浮上または着底して静止し、遊泳中にも眠ります。監修者は、ヒトの半球睡眠の可能性もあるとみています。しかし同じ水中でも、アザラシやラッコは全球型で熟睡しています。魚類では、眠っているゼブラフィッシュで2種類の脳波が確認されました。フナはあくびをして起きるそうです。タコは眠っていても、周囲に合わせて体色を変えます。レム睡眠しているのかもしれません。
一方、ナマケモノは、1日のほとんどを眠って過ごしているように見えますが、実際の睡眠時間は10時間ほどでした。エネルギーを節約しているのです。私たちが、眠気に襲われて「寝落ち」すると、事故の原因にもなります。「眠りの国」の深いお話でした。「了」

カテゴリー: サロンの話題 タグ: , , パーマリンク