「とれない痛みはない」 2023年2月6日 吉澤有介

柏木邦友著、幻冬舎新書、2022年11月刊
著者は、麻酔科専門医です。順天堂大学医学部卒、同大学浦安病院麻酔科勤務を経て、東京マザーズクリニック、鼻のクリニック東京などで、多数の麻酔を手掛けています。
一般に麻酔科医といえば、「手術室で麻酔の管理をする」というイメージですが、麻酔医には、「医師免許」のほかに厚生労働大臣による「麻酔科標榜医」の国家資格が必要です。麻酔医の重要な要件には「鎮痛」があり、麻酔医は「鎮痛」のスペシャリストなのです。
私たちが痛みを感じるのは、「痛みの信号が脊髄神経から脊髄を通って、腦に到達したとき」です。その経路をどこかでブロックすれば、痛みは治まり、痛みを感じなくなります。しかし、痛みは身体の異常を知らせる貴重な信号です。痛みはただとるだけでなく、その原因を突き止め、そこに病気があれば治療しなければなりません。痛みは我慢すると、どんどん痛くなってゆき、神経が勘違いする「関連痛」や、重篤な病気になったりします。
一方、私たちには「痛み」を軽くしようとする仕組みが備わっています。痛みの信号を受けた脳が、「下行性疼痛抑制系」によって、痛みを抑えようとするのです。「腦内麻薬」エンドルフィンが出るという説があり、気の持ちようや、鍼治療で実際に確かめられています。

痛み止めには2種類の鎮痛剤がよく使われます。「カロナール」は、この「下行性疼痛抑制系」の働きを活性化して、鎮痛効果を発揮します。副作用は少ない。もう一つの「ロキソニン」は、身体の組織が損傷すると出る「プロスタグランジン」という痛み物質を抑制します。早く効きますが、血管を収縮させるので腎障害や胃を荒らす副作用があります。それぞれの特徴がありますが、ともにこれ以上いくら飲んでも効かないという「天井効果」があります。そこで強い痛みに使われるのが天上効果のない「モルヒネ」などの麻薬なのです。
しかし日本では麻薬に対して強い抵抗があります。これは全くの誤解で、適切に処方すれば安全で、依存症になることはありません。強い痛みには国際的に積極的に使われています。
日常で起きる痛みでは、「頭痛」があります。「緊張性頭痛」には、反復性と慢性があり、筋肉の緊張で発痛物質が出て、痛覚が過敏になるとの説が有力です。「片頭痛」の原因は多様です。とくに低気圧のときに起きやすい。邪馬台国の卑弥呼も片頭痛持ちで、雨の予測をしたといいます。ともに先に挙げた鎮痛剤が有効です。ただし乱用は極力避けましょう。
肩凝り、腰痛などでは、慢性化して悩むケースが多い。ヒトの進化による骨や筋肉への過剰な負担が原因です。筋肉の収縮が血流の低下を招いて発痛物質が生じ、痛みによる筋肉の収縮がさらに血流低下を招く悪循環になるのです。一度は病院で受診しましょう。原因となる明確な病気がなければ、運動療法が強く推奨されています。痛みが強い場合には神経ブロック注射も選択肢に入ります。とくにぎっくり腰には有効で、早めに受診することです。
CTやMRIでも原因がわからない痛みがあります。「心因性疼痛」などですが、最近は新型コロナの後遺症の「慢性疲労症候群」が注目されています。治療方法はまだ進行中で、痛みには鎮痛剤が処方されています。また「緩和ケア」は終末期の治療とは限りません。がんでなくても、自宅ケアでもできます。痛みに対する多くの事例が紹介されていました。「了」

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