米山 優著、ちくま新書、2022年12月刊
著者は、1952年に東京都で生まれ、東京大学大学院人文科学研究科で博士(学術)。名古屋大学大学院情報学研究科教授を経て現在は名古屋大学名誉教授です。専門は情報学、哲学で、著書に「自分で考える本」(NTT出版)、「情報学の展開」(昭和堂)などがあります。
本書では、まず(考えること)を考えます。人は、ものごとがうまく運んでいるときには、考えてはいないようです。また習慣的に行動しているときも、意識はしていません。動物などの本能的な動きに似ています。本能は、特別な努力をしなくても、種の慣例に従えば、失敗することはまずありません。ところが人間は失敗します。多くの場合、いくつもの選択肢があって、どれを選ぶか迷い、行動に移ることに躊躇します。その「意識」の度合いは、「潜在的な可能性」から「現実の活動」を選択するときに、判断が難しいほど強く働くのです。
その悩みも、受動的に考えさせられるときには苦しく、自分から進んで何かを考えるときには、心が晴れて楽しい。自分が考えるという働きによって、初めて知が手に入るからです。
哲学的思考とは、受動的に考えさせられるのではなく、能動的に考えることなのです。受験勉強など何かの目的のために、どこかで出来上がった知識を自分に叩き込むのとは違うことは明らかです。将来の自分のためという目的に支配され、手段と目的のつながりに埋没しているのです。自分を観察して、そのつながりの有り方に問題を提起することができるか、「可能的なもの」から「実在的なもの」へのつながりを考えるのです。逆に、いまだ可能性としては拓かれていない「ヴァーチャルなもの」を、今の現実から発想して捉えるならば、いまだどこにもないものを新たに創り出す、「人間による創造行為」となることでしょう。
著者は、「哲学」とは「善く生きることに深く関わる知恵」といいます。(気がついたらこの世にいた。それなら善く生きてみるか)という決断が哲学的思考と結びつくのです。読書についても、書かれたものを読み取るという、一見受動的に見える行為にも、読者が独自の読み方で、(著者とのつながり)を新たに創ってゆくことで主体性が生まれてきます。勝手に誤読してはいけませんが、能動的な読書で自分なりの創造的な読み方ができるのです。
個人の人間形成も、「記録係」か「判断者」になるかという問いがあります。すでにある物事を、ただ覚え込んで即座に答えを出すのか、自分から探求すべきことを思いつくのか。すでに存在するつながりから脱出しなければ、創造の端緒にはつけません。知識を詰め込むだけなら、アリやハチと同じです。彼らは自分の存続の基礎を親から覚え込んで、社会的生活を営んでいます。過去と未来との関わりも含めて、動物と人間との共通点と相違に注目して、社会学が生まれました。人間は歴史を持っています。いま生きている人間が、過去の事物を記念して新たなつながりを求め、「人間精神の発展」という視点に立つことなのです。
社会の中では、既存のパターンの繰り返しが、当然のように責務として課されることがあります。物事のつながりに、がんじがらめになっても、これで善いのかと問い直し、未来とのつながりを考えるなら、地球規模のネットワークへの手がかりになることでしょう。
本書は、古今の哲学者たちの思索の跡を辿り、多くのヒントを与えてくれました。「了」
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