「絶滅の人類史」 更科 功著 2019年3月17日 吉澤有介

なぜ私たちが生き延びたのか    NHK出版新書、2018年1月刊

著者は、東京大学大学院理学系研究科出身の生物学者で、専門は分子古生物学、動物の骨格の進化を主なテーマとしています。人類は約700万年前にチンパンジー類と分かれて、独自の進化の道を歩み始めました。最初に進化した人類の特徴は二つあります。それは直立2足歩行と、犬歯の縮小でした。チンパンジー類とは本質的に異なる進化だったのです。

直立2足歩行は、化石の頭蓋骨と脊椎をつなぐ大後頭孔の位置で確認できます。しかしこの2足歩行は、生きてゆくためには決して良いことではありませんでした。草原では肉食獣から見つかりやすく、4足歩行より走りが遅いので、すぐに捕まってしまいます。木立のある疎林に逃げ込んで、ようやく助かったのでしょう。他の動物に2足歩行はいません。

なぜ人類だけなのかは大きな謎でした。現在知られている人類最古の化石は、約700万年前のサヘラントロプス・チャデンシスです。頭蓋骨から推定した腦の大きさは約350㏄で、チンパンジーと大差はありません。同時に発見された化石から、彼らは疎林と草原のある環境に棲んでいたことがわかりました。その260万年後のアルデイピテクス・ラミダスでも脳の大きさは同じくらいで、身長120㎝くらい、足に土踏まずがないことから、まだ歩きは下手で、臼歯をみるとやはり森に頼り、木の実などを多く食べていたようです。

しかし犬歯はかなり小さくなっていました。武器として使わなくなったからです。発情期の群ではオスの戦いは熾烈です。もし初期人類で発情期が失われたとすれば、オスとメスが近くなってペアができ、自分の子供がわかります。オス同士の争いは減ったことでしょう。

それでもまだ初期人類の環境は危険に満ちたものでした。乾燥が進行して森林が消えてゆくと、疎林や草原に出るしかありません。足の遅い人類の多くは肉食獣に食べられました。しかし何とか生き残った人類がいたのです。それは集団で生きることでした。直立2足歩行で空いた手で食物を運搬して、集団の中で分配し、ペアで子育てをして子供を増やしてゆきました。食べられても産めばよいのです。そうして絶滅を逃れたアウストラロピテクスから二つの系統が進化しました。頑丈型猿人とホモ属です。頑丈型猿人は乾燥した草原で硬いものを食べて顎や臼歯を発達させました。一方のホモ属は逆にこれらが小さくなりました。

石器を発明して、肉食動物の食べ残した肉や骨髄を食べたのです。豊かな栄養で脳が大きくなってゆきました。ホモ・エレクトウスは奇跡を起こします。石器を使って肉を食べ、2足歩行で長距離を運搬して、群や家族に分配しました。走ることもできたようです。暑い草原で、汗を蒸発させて体温を調節するために体毛をなくして、大きく繁栄してゆきました。

彼らはアフリカを出てユーラシアに進出しました。しかし環境には、やはり適応できなかったようです。火の使用は、南アフリカで100万年前ころとみられ、ホモ・ハイデルベルゲンシスが現れました。ネアンデルタール人と私たちヒトの祖先です。脳は社会生活でさらに大きくなってゆきました。約40万年前にヨーロッパに出た集団からネアンデルタール人が進化し、残った集団からヒトが進化して、両者は4,7 万年前にヨーロッパで再会します。ヒトは体格では劣っていましたが、言語と技術に優れ、高い出生率で圧勝したのです。「了」

カテゴリー: サロンの話題 タグ: パーマリンク