「カラスをだます」2022年9月18日 吉澤有介

「カラスをだます」
塚原直樹著、NHK出版新書、2021年2月刊   2022年9月18日 吉澤有介
著者は、1979年群馬県生まれで宇都宮大学農学部卒、同大学大学院農学研究科で修士、東京農工大学大学院連合農学研究科で博士(農学)。総合研究大学院大学助教を経て独立し、カラス対策専門ベンチャー(株)CrowLabを創業しました。カラス語に精通し、全国のカラス対策に奔走中。カラス料理研究家としても活躍しています。
もともと生き物が好きだった著者は、宇都宮大学で動物学を学び、カラス学を提唱した著名な杉田昭栄教授の研究室に入りました。そこで与えられたテーマが、「カラス語の解明」だったのです。それは、まだ誰もやっていないイバラの道でした。デジタルオーデオのレコーダーを肩にかけて、ひたすらカラスを追う日々が始まりました。カラスは目が良くて、すぐ人の顔を覚えます。隠れてあらゆる場面の声を録音し、音声解析装置で、声の特徴を周波数や音圧などを数値化し、パソコンでソナグラムにして視覚化しました。
そこでハシブトカラスの鳴き声を41種に分類しました。例えば①「アー」という優しい鳴き声は挨拶、②「アー、アー、アー、」は自分の居場所を相手に知らせる、③「アツ、アツ、アツ」という平板な声は、「食べ物を見つけた」という知らせで、カラスが集まってきます。④「グア~ワワ」という震えた声は求愛、⑤「アツ、アツ、アツ、アツ、アツ」という強く短い繰り返しは警戒、⑥「ガー、ガー、ガー」という濁った声は威嚇です。ただ全部まではわかりません。杉田先生の専門は解剖学でしたから、著者はカラスの発声器官の解剖にも取り組み、ハシブトカラスが多様な発声ができるソングバードの仲間であることを発見しました。杉田研究室には、「カラス被害」相談が集まります。著者が、応用研究に向かうのは自然の流れでした。カラスを追い払う警戒音を流す効果を確かめて、特許を取得しました。山形市役所からの依頼では、カラスのねぐらとなっていた市役所周辺の被害対策で、いては困る場所から、いても良い場所(近隣の裁判所の森)への、群の誘導実験が見事に成功しました。
またあるテレビ局からの依頼で、カラスと会話する企画が持ち込まれました。しかし、人の声で真似をするのは容易ではありません。ところが番組では、江戸家小猫さんを連れてきたのです。実声でもソナグラムでも、さすがに近い物真似で驚嘆しました。ハシブトカラスの鳴き声にある、特有のノイズまで練習して、早朝の新橋で実験しました。小猫さんの鳴き真似をスピーカーで流すと、「アー」と返ってきました。さらに場所を原宿に移すと、小猫さんの声に付近に集まっていた群が、一斉に飛び立ち、上空を旋回しました。近くの代々木公園まで誘導できたのです。この成果で、科研費に応募して見事に採択されました。
カラスが賢いのは有名です。著者はカラスになり切って、その感覚と知能に迫りました。黄色が嫌いとは、実は紫外線をカットした場合のことでした。カラスは紫外線でモノを見ているのです。嗅覚は鈍い。好物は断然マヨネーズです。尾腺に脂を補給するためでした。
著者は料理が得意でした。カラスを食べてみると、これは美味しい。安全性を確認して、レシピを研究中です。これは民族博物館との共同研究になりました。カラス対策は、様々な分野の専門家とのコラボを進めています。その多くは飲み仲間というから愉快ですね。「了」

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