「地球外生命」小林憲正著、中公新書2021年12月刊 2022年2月16日 吉澤有介

アストロバイオロジーで探る生命の起源と未来

著者は、東京大学大学院理学系研究科化学専攻博士課程を修了し、米国メリーランド大学化学進化研究所研究員、横浜国立大学大学院教授を歴任して、現在は同大学名誉教授です。

「アソトロバイオロジー」(岩波科学ライブラリー2008年)、「生命の起源」(講談社2013年)、「宇宙から見た生命史」(ちくま書房2018年)など多くの著書があります。

地球外生命は、これまでSFとしてよく取り上げられてきましたが、実は現在、自然科学上の最重要課題として、第一線の科学者たちの熱い議論が展開されています。地球外生命の問題は、生命の起源の謎に直結しているからです。私たち生物はどこから来たのか。しかし、生まれたばかりの生命を探るとしても、地球上にその痕跡は全く遺ってはいません。

一方、宇宙にはたくさんの星があるので、中には今まさに生命が誕生しようとしている惑星があるかも知れない。生命の誕生や進化の過程にある天体を調査すれば、地球上の生命の起源の追究に役立つことでしょう。また生命は、必ずしもその星で誕生したとは限りません。他の星から移住してきた可能性もあるのです。「圏外生物学」が提唱された所以でした。

さて、地球外生命が対象であっても、まずは地球内の生命探索が基礎になります。ところが1970年代に、これまでの生物の常識を大きく覆す発見が相次ぎました。暗黒の深海底熱水噴出孔や超高温の温泉、極低温、高放射線、高塩濃度などの極限環境に多くの生物が生息していたのです。南極の隕石にアミノ酸が見つかり、火星由来と判定されて、圏外生物学が一気に現実となってきました。生命の元になるアミノ酸は、宇宙の恒星ができる前の分子雲の段階で、すでに生まれていたらしい。アミノ酸は宇宙環境では、案外できやすい分子のようです。それが生命に化学進化したという、「RNAワールド説」が現在有力になっています。

太陽系惑星の生命探査は、まず火星から始まりました。NASAによる1976年のヴァイキング計画は、上空からの観察で過去に大量の水の流れた痕跡を発見しました。さらに生命の存在調査のために無人機を着陸させ、土壌を採集してさまざまな実験を行いました。しかし、生命の存在までは確認できず、否定的な解釈が行われて、その後しばらくは探査が中断していました。そこに地球生命の衝撃的な知見が登場したのです。ヴァイキングの資料が見直され、新たにローバーと呼ばれる火星地表探査機が、1997年から続々と送り込まれました。

火星はかって水の惑星だったのです。地下には現在も水があり、メタンや過塩素酸塩、ベンゼン環を含む複雑な有機物まで発見されました。火星では地球よりも先に生命が誕生していたようです。その後大気や表面の水の大半が失われ、多細胞への進化が困難になったのでしょう。しかし現在も生存の可能性があります。蛍光顕微鏡による調査が行われ、隕石のアミノ酸についても、右手型か左手型かによる、地球生命との対比が論議されています。

NASAは、さらに木星と土星の探査を進めています。ヴォイジャーによると、木星の衛星イオに火山活動があり、エウロパには水が液体で存在していました。土星の衛星タイタンには大気があって厚い雲に覆われ、複雑な有機物が確認できます。いずれも原始地球の環境に似ていたのです。太陽系外惑星の発見も相次いで、圏外生物学の進化は驚異的でした。「了」

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