宇宙誕生と私たちを結ぶビッグストーリー
山田美明訳、光文社2018年2月刊 著者は、カリフォルニア大学バークレー校の地質学者で、地球および惑星科学の教授です。6600万年前、地球上の動植物の属のおよそ半数が絶滅しました。著者ら一部の地質学者は、それを大隕石の衝突によると主張しましたが、その証拠は一向に見つからず、地球の変化はゆっくりと進んだとみる「斉一説」による世界の地質学者はみな否定的でした。しかし著者らは、メキシコの石油地質学者が観測した引力のわずかな異常から、そこに巨大なクレーターが埋もれているとの情報をもとに現地に飛び、1991年2月、白亜紀と第3紀の境界の地層で、ついに隕石衝突の決定的な証拠を発見します。それはまさに劇的な瞬間でした。
歴史は必然ではありません。偶然が重大な役割を果たしていました。もし隕石衝突がなかったら、おそらく恐竜は今も地球最大の生物として君臨していました。哺乳類は小型のままで、ヒトは生まれていなかったことでしょう。宇宙、地球、生命、人間の各領域で、この世界が違う道を辿る可能性は無数にありました。著者は、今あるこの世界を理解するために、宇宙誕生以来のあらゆる歴史の「ビッグストーリー」に目を向けることにしたのです。
宇宙の歴史はビッグバンで始まりました。発見者は天文学者のE・ハッブルとされていますが、実際にその研究を進めたのは、はじめウィルソン天文台に資材を運ぶラバの御者であったM・ハマソンという若者でした。天文観測を手伝ううちに独学で技術を習得し、観測作業が苦手だったハッブルに代わって、銀河系とそのはるか遠くにある銀河の動きを確認し、宇宙が膨張していることを発見したのです。それは時間を戻せば、およそ140憶年前のビッグバンに行きつくことを意味します。世紀の大発見は、ハマソンの独学があってのことでした。観測値は後に修正されましたが、宇宙には年齢があり、歴史があったのです。宇宙を動かす物理学の法則と、重力などの基礎定数も絶妙でした。それが少しでも違っていたら、今の宇宙は全く別のものになって地球も誕生せず、人間世界も存在しなかったでしょう。
地球は、さまざまな元素でできています。主成分は偶然なことに、酸素、マグネシューム、珪素、鉄、の四つで、岩石として地殻を形成し、超大陸となり、それが細かく分裂する離合集散を周期的に繰り返しました。今ではプレートテクニクス理論で解明されましたが、そこで生まれた大陸や海洋、それに伴う気候変動は、生物の歴史に大きな影響を与えました。
生命の起源は、おそらく地球誕生から5億年ほどの、大規模な隕石衝突が終わったころ、つまり始生代初期とみられますが、単細胞生物に光合成するものが現れて酸素革命を引き起こし、地球の生態系に深刻な影響を与えました。単細胞生物は、30憶年以上を経て多細胞生物へと進化します。しかしそれも必然ではなく、可能性は極めて少ないものでした。
人間の歴史でも偶然はきりがありません。絵が得意だったヒットラーが、もしそのまま画家になっていたら、20世紀の歴史はどうなっていたでしょうか。ビッグストーリーの歴史には「連続」と「偶然」があります。連続には方向性と周期性がありますが、偶然は予測不能で、しかも重大な意味を持っています。私たちは、何と幸運だったことでしょう。「了」