「山火事と地球の進化」  2023年10月3日 吉澤有介

アンドルー・C・スコット著、矢野真千子訳、矢部淳解説 河出書房新社2022年10月刊
著者は、1952年イギリスに生まれ、ロンドン大学卒、同大学で博士。現在は、現代と過去の火事システムに関する特別研究教授です。専門は古植物学、石炭地質学。地質時代の山火事についての研究分野を開拓して、200編以上の論文を発表した世界の第一人者です。
近年、世界各地で山火事が多発しています。その破壊力はすさまじく、大きなニュースで人々を恐怖に陥れています。山火事には長い歴史がありました。原因の多くは雷で、火山活動のこともあります。太古の昔から自然発生する山火事は地球の姿を変え、動植物は逞しく適応してきました。ヒトの出現は、地質学的にごく最近のことですが、火とは深く関係しています。一方的に恐れるだけでなく、その役割を正しく理解しなければなりません。
火は、少なくとも4憶年に渡って地球を動かす重要な役割を果たしてきました。4憶年とは、燃料としての植物が上陸してからの時間です。燃焼拡大には大気中に酸素が十分にあって、気温が高く、乾燥して風があるという気象条件が必要です。その山火事の実態が明らかになったのは、ここ30年ほどのことで、人工衛星からの画像技術によるものでした。
また現地調査では、山火事は動植物を襲うだけでなく、環境に大きく影響していました。土壌が変質し、大雨が降ると下流に土砂災害を起こします。植物も頻繁な火災に適応してゆきました。樹木は樹皮を厚くして耐火性能を高めました。ある種の針葉樹では火熱を受けると球果が開いて種子を落とし、ライバルのいない焼け跡の地表で発芽します。アフリカのサバンナでは、C4型の植物が、焼かれることで発芽し、むしろ火事を必要としていました。
山火事の跡には、燃えかすの植物と多量の木炭が残っています。木炭の生成過程では、木材のセルローズとリグニンに含まれる水素が燃焼で揮発し、炭素が格子状にヒビの入った木炭として残ります。腐敗することはありません。それなら化石にもきっと残るはずでしょう。
著者は、「木炭化石」に注目しました。石炭に鉱物状の木炭が含まれていることは、すでに知られていましたが、その成因は謎でした。決め手になったのは、走査型電子顕微鏡による観察で、堆積岩に含まれる木炭化石も、石炭の中にある木炭化石も、高い反射率を示し、ともに詳細な細胞壁や葉の気孔まで鮮やかに見せてくれました。ヒースの花まで炭化して、そのまま化石になっていたのです。最古の火事が3,5 憶年前のデボン紀末であることもわかりました。続く石炭紀には、木炭化石が盛んに出てきます。火事は日常的に発生していました。当時の植生や、発生間隔まで分かりました。大気中の酸素濃度が極めて高かったのです。
それが2,5 憶年前のベルム紀末に、生物種の95%までが絶滅しました。酸素濃度が急落したためです。世界が一変する、地球史最大の出来事でした。その後ジュラ紀から白亜紀にかけて、再び火事が増加しました。恐竜の時代で、大陸が移動し、顕花植物が出現しています。K/P境界前後には火事が多発しており、隕石の衝突もその自然現象の一つでした。
ヒトが出現すると、火を使い、管理しました。人為火災も起こしましたが、調理によって身体的、社会的進化を促進しました。しかし居住地の拡大は、常に自然火災に直面します。気候変動とも深い関係がありました。被害を防ぐ賢明な対処行動が求められています。「了」

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