松原 始著、カンゼン、2019年12月刊
著者は1969年生まれ、京都大学理学部卒、同大学院理学研究科博士課程修了。専門は動物行動学。現在は東京大学総合研究博物館特任助教です。研究テーマはカラスの生態、行動動物学で、「カラスの教科書」(講談社文庫)、「カラスの補修授業」(雷鳥社)、「にっぽんのカラス」(カンゼン)などの著書があり、幼年時代からの鳥マニアは年季が入っていました。
人間は誰でも鳥のように空を飛びたい思いがあります。ギリシャ神話でもイカロスが翼をつけて飛びました。しかし実際には人力での羽ばたき飛行はすべて失敗しています。鳥の羽ばたきは、思った以上に複雑な運動だったからです。鳥は翼の角度を変えながら斜め前に振りおろしています。その細かい動作を機械的に再現することは非常に難しい。それに鳥には体重の25%にも達する強力な飛翔筋があります。とうてい人力の及ぶものではありません。しかし、物理的な基本は揚力と推力ですから、その原理を生かした人間は、大空を自由に飛ぶようになりました。あらためて鳥を工学的にみると、そこには不思議な世界がありました。
鳥が翼を振り下ろすとき、翼は斜め下に向かい、翼面に発生した揚力は、前向きに働いて、羽ばたくだけで前に進みます。鳥の翼には様々な形があります。アホウドリの翼はたいへんに細長く、先がとがっており、クマタカやイヌワシは堂々たる巾広い翼で、先端は指のように分かれています。スズメなどの小鳥の翼は短くて丸い。それぞれの飛び方に合わせた揚抗比を持たせています。翼面積を体重で割ったのが翼面荷重です。猛禽類では小さく、急旋回が得意で、獲物を見つけると翼をたたんで急降下します。カラスは翼面荷重が大きいので、強い向かい風では前に進めません。翼面荷重が特に大きいのはハチドリで、ホバリングしながら花の蜜を吸います。ヘリコプターが真似ました。また鳥の翼には、肩、肘、手首の3か所に軸があって、これを回転させながら翼を重ね合わせて、翼面荷重を自由に調節することができます。さらに親指の部分に小翼羽があって、離着陸や低速飛行時に有効に働いていました。現代の飛行機でも真似のできない特技で、せいぜいフラップでカバーしているのです。
いま動物で羽毛のあるのは鳥だけです。羽毛は鱗と同じ材料のケラチンでつくられ、重ねた羽毛で翼面を形成しています。ごく軽量で剛性と柔軟性を兼ね備えた優れもので、小さなピースを並べた構造は、衝突にも強い。羽毛の防水性も見事です。これまでは尾羽の付け根から分泌されるワックスのせいとされていましたが、羽毛の微細構造に撥水性があることがわかりました。その保温性は抜群です。鳥の体温は高く40℃もあり、高温でタンパク質が変性する温度まで、ほんの数度の余裕しかありません。小さな身体で代謝を高めながら熱を発散させていますが、ギリギリの調整を要します。その保温調整は、正羽の根元の綿毛が担っていました。ダウンの威力です。また羽音の消音は、シマフクロウの特技でした。
鳥のナビゲーションは、様々な方法の組み合わせでした。天測航法が使えなければ磁気感覚、さらに嗅覚まで使っています。また鳥の視覚は、人間の数倍ともいわれています。カラスの視覚は驚異的でした。猛禽類に、紫外線で獲物の尿を見つけた例もあります。鏡の実験では、ハトが自己認識していました。著者のマニアックな探索は、なおも続いています。「了」
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