—古代DNA研究とジュラシック・パーク効果—
エリザベス・D・ジョーンズ著、原書房、2022年6月刊 著者は、ノースカロライナ州立大学で歴史と哲学を専攻した科学史学者。ノースカロライナ自然科学博物館研究員として、古生物学及び古代DNA研究の歴史を研究しています。
1993年6月10日、カリフォルニア大のラウルの研究チームは、琥珀の中に保存されていた1憶2千万年前の昆虫からDNAを抽出し、その配列を決定したと、ネイチャー誌で報告しました。その日は、まさに映画「ジュラシック・パーク」封切りの翌日で、世界一般公開前日のことでした。論文の著者らは偶然の一致だと主張しましたが、化石からのDNAの探索は大きな論争を巻き起こし、新しい科学分野を方向づけるきっかけになりました。マスコミとの強い関わりの中で、推測的なアイデアから進化史研究へと発展していったのです。
その始まりは1977年のことでした、科学者で作家でもあったC・ベリグリーノは、ある化石ハンターから、白亜紀の琥珀の化石と、中にいた9500万年前の2匹のハエを入手しました。それは顕微鏡で、昨日まで生きていたかのように、内臓の細部まで観察できたのです。彼は、絶滅生物のDNAの抽出と復活可能性のアイデアを、同僚や専門雑誌に提示しましたが、あまりの突飛さで猛烈な抵抗に会い、仕方なくSF雑誌オムニ誌で論文を発表しました。
1980年、モンタナ州の皮膚科医トカーチは、「蚊が恐竜の血を吸う」アイデアを出し、その2年後、カリフォルニア大学のボイナーとヘスが、琥珀の中のハエの内部組織を確認して、サイエンス誌で発表します。トカーチとの絶滅DNA研究グループが発足しました。
ちょうどこの頃、ハーバード大医学部出身のクライトはSF作家に転身して、恐竜のテーマに取り掛かっていました。これらの論文をヒントに「ジュラシック・パーク」が生まれ、すぐにベストセラーになりました。さらにスピルバーグの映画化で大ブレークしたのです。
この一連のアイデアは、研究室の外で生まれましたが、古代DNA研究を専門的に指導したのは、カ大バークレー校の生化学教授ウィルソンで、ボイナー、ヘスと研究員のヒグチは、琥珀の中の昆虫のDNA抽出を試みましたが、DNAの汚染という難問題に直面しました、ウィルソンらは、対象をより新しい100年前に絶滅したクアッガに絞り、剥製からのDNAの抽出に成功し、1984年にネイチャー誌で発表しました。一歩前進したのです。
同じころ、スウェーデン、ウプサラ大学では、大学院生のペーボは、古代エジプトのミイラのDNA抽出に取り組んでいました。スーパーでレバーを買って実験を繰り返し、ついにミイラのDNA回収に成功しました。論文はネイチャー誌に載り、ともに注目されました。
1990年代の化石DNA探索は、「ジュラシック・パーク」によるマスコミと大衆からの熱い関心のもとで発展してゆきました。しかし科学者たちには、なお技術的な多くの課題がありました。分子生物学手法であるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による技術革新が貢献したものの、汚染の問題に悩まされました。展望が開けたのは、2005年の次世代シーケンシング(NGS)の登場で、全ゲノム配列決定が、劇的に改善されたことでした。ペーボはネアンデルタール人のゲノムを解明しました。著者は、マスコミと科学が互いに影響し合う、新しい「セレブリテイ科学」(パブリシテイを超えて注目される科学)を提唱しています。「了」
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