角川新書、2022年3月刊
著者は1971年、愛媛県生まれ、北海道大学大学院農学院修了の博士(農学)です。学生時代にキャンパス内に畑を開墾し、野菜を生産しました。大手シンクタンク、花卉・生果物流通企業などを経て独立し、農業・畜産分野での商品開発やマーケテイングを行いながら、日本全国の食材や郷土料理で、エシカルフードの普及活動をしています。
「エシカルフード」をご存知でしょうか。エシカルとは「倫理的な」を意味する言葉です。倫理的に配慮された食品は、いま欧米を中心に積極的に議論され、ルール化されて、環境問題における「SDGs」を担う、重要な問題点として浮上しているのです。「SDGs」は、倫理的、道徳的な開発・消費をして、「持続可能」(サステイナブル)で多様性と包摂性のある社会の実現を目指すもので、1987年の国連による「環境と開発に関する世界大会」で提唱されました。イギリスでは、マンチェスターの大学生らが、1989年に食の活動を始めました。
企業活動や商品を倫理的観点から評価して、消費者が「非倫理的」な商品をボイコットし、「倫理」に配慮した商品をバイコット(買い支え)するキャンペーンを展開したのです。
その「倫理性」の定義も深く議論され、主に次の三つの分野に収斂してゆきました。
●人への取り組み
児童労働への対応、労働者を搾取しない公正な報酬・賃金、強制・奴隷的労働の排除
●環境への取り組み
持続的土地利用、天然資源の活用、化学肥料・農薬の汚染、輸送コスト・環境への負荷
●動物への取り組み
動物実験の排除、アニマルウェルフェアの実践、ニワトリや牛など家畜の飼育環境改善
さらに商品・サービスの持続可能性について、過度の買い叩き、不当な取引を排除するフェアトレード、食品ロスの削減などを取り上げ、国際認証制度が進められています。
一方、日本の対応には、欧米社会と大きな違いがありました。日本にも倫理的な文化背景がありましたが、「食品のトレーサビリテイ」では、消費者の「安全」だけを目指していました。しかし欧米では、商品の流通過程で生態系を乱すような乱獲、生産者の低賃金、過酷労働はないか。流通業者の労働条件など、非倫理的社会問題の有無を確認するものでした。
エシカルフードは、とくにオリンピックで問題が浮き彫りになりました。2012年のロンドン、オリパラで、提供する「食」はすべてエシカルとされ、環境破壊していないことが条件になりました。これはリオにも引き継がれ、東京にも実践が求められました。コロナ禍の最中でしたが、国際認証である「適正農業基準」(GAP)に、ギリギリの対応でした。
一般企業では、「ルミネ」が積極的にエシカルに挑戦しています。「スタバ」も100%調達を宣言しました。一流レストランでは、経産牛を活かす工夫をしていました。宮城県戸倉のカキ業者は、東日本大震災を機に、過密養殖をやめ、1/3の間引き養殖で再建したら、品質が格段に向上して、労働条件も改善し、国際認証をとりました。イオンも注目しています。
我が国の食のエシカルは、遅ればせながら世界を目指して、着実に動き始めています。
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