「富士山大噴火と阿蘇山大爆発」巽 好幸著、幻冬舎新書、2016年5月刊 2021年11月12日吉澤有介     

物騒な題名ですが、著者は京都大学理学部卒で、東京大学大学院理学系研究科で博士課程を修了した地球物理学者で、京都大学、東京大学の教授を歴任したマグマ学の第一人者です。内外の多くの学会賞を受賞し、一般向けにも地震と噴火についての数々の著書があります。

3,11以降、日本列島が「活動期」に入ったという見方が広がりました。しかし著者は、古代からの記録を検証して、大地震や大噴火はいつの時代にもあったことで、地震と噴火の関連性も、科学的にはまだ十分に解明されてはいないといいます。言い換えれば、日本列島では地震と噴火は、関連性の有無にかかわらず、いつ起こってもおかしくないのです。それは、二つのプレートが下に沈み込んでいる、日本列島の宿命でした。

富士山は、歴史時代以来、すくなくとも10回噴火しています。中でも864年から3年続いた貞観噴火は大規模で、富士五湖が誕生しました。1707年の宝永噴火も大規模で、20日間にわたって大量の火山灰を噴出して、近隣を埋没させ、江戸でも数センチ降り積もったといいます。この噴火を最後に、富士山は沈黙しました。富士火山の体積は、約550立方キロメートルもあります、全部崩して土砂にすると、瀬戸内海が半分埋まるといいます。これは他の多くの火山の5倍以上もある、圧倒的な大きさでした。巨大化の理由は、二つのプレートが重なって沈む特異な場所のためとされてきましたが、南の海中に伸びる「富士火山帯」には、富士山の6倍もある巨大火山が連なっています。玄武岩質の地殻が若くて薄いために、多量のマグマが上昇していたのです。噴火はいつ起きても、不思議ではありません。

富士山の噴火については、詳細なハザードマップがつくられています。しかし、マグマの噴出がなくとも、大規模な火山災害を起こす現象がありました。噴火に先立って起きる「山体崩壊」による「岩層なだれ」で、富士山ではおよそ5千年ごとに発生していたのです。頻度は低いものの、噴火よりもはるかに大きな被害を招くことが想定されています。

日本列島には、さらに甚大な災害が起きていました。それは巨大カルデラ噴火です。地下に大量に溜まったマグマが一気に噴き出し、その結果地下に巨大な空洞ができて天上が崩れ、カルデラになるのです。そのマグマは、すべて二酸化珪素の多い流紋岩質ですから、圧倒的な大爆発を起こします。今から7300年前に、南九州で起きた「鬼界アカホヤ噴火」は、富士山噴火の千倍以上のエネルギーで、高温の火砕流は海を渡り。薩摩・大隅半島を覆いました。九州南部に積もった火山灰は30センチを超えて、当地の縄文人を絶滅させたのです。アカホヤと呼ばれるその火山灰は、水月湖に堆積した年縞で、年代が確かめられています。

過去の大噴火については、群馬大学の早川由紀夫が、地質調査と独自の方法によって、日本列島の過去百万年のマグマ噴出量を求め、噴火データベースを作成し、その規模を世界初の指標「噴火マグニチュード」で示しました。M7以上を巨大カルデラと呼びます。それは北海道と九州に集中しており、九州で噴火すると偏西風で本州全域を覆います。8万7千年前の阿蘇噴火はM8.4 で、その火山灰は遠く北海道でも15センチも積もっていました。

今の私たちは、幸運だったのです。著者は、カルデラ噴火を詳しく解説していました。「了」

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