「ドラえもんを本気でつくる」大澤正彦著、PHP新書、2020年4月刊 2021年10月3日 吉澤有介

著者は、1993年生まれで、子どものころから「ドラえもん」をつくる夢を身続けてきました。東京工業大学付属科学技術高校から慶応義塾大学理工学部に進み、現在は同大学院理工学部研究科の博士課程に在学中です。日本認知科学会「認知科学若手の会」代表、人工知能学会学生編集委員、日本学術振興会特別研究員などの多彩な活動を展開しています。

ドラえもんは、1970年1月号の学年誌「よいこ」から連載が始まりましたが、その誕生にはドラマがありました。作者の藤子・F・不二雄が、新連載の締め切り当日の朝まで何もアイデアが出ず、苦し紛れに頭の悪いぐうたらな男を助けてくれるロボットを思いついたのがドラえもんでした。ぐうたらなのび太を助けて、のび太を幸せにするロボットとして、登場したのです。著者は、このドラえもんを実際につくることによって、多くの人を幸せにすることを考えています。急速に発展したAIが、その可能性を示してくれました。

AIは1950年代に始まりました。コンピューターが出現して、人の知性を代替することが期待されました。しかし、単なる機械学習や大量の知識を与えても、その作業を人間が行う限り、人間以上のものは生まれず、30年の月日が流れました。ここで画期的なデイープラーニングの技術が生まれたのです。大量のデータさえあれば、コンピューターが勝手に知識の構造を学習して、自動的に知識を獲得し、画像認識ではすでに人間を超えたといいます。

レンブラントの絵をたくさん学習させると、いかにもレンブラントらしい絵を描きます。言語への応用も進んで、画像から恋愛物語をつくることができます。逆に文章から風景などの画像までつくれるのです。囲碁では、プロ棋士に勝利して話題になりました。

しかしAIは、人間が予想しないことをやりかねないことも、わかってきました。時には人間を傷つけることもあります。1993年に出た映画「ドラえもんとのび太とブリキの迷宮」では、技術が進んで発明をするロボットまで生まれ、人間は発明しなくても生活が楽になる世の中になります。ところがある日、発明したロボットが突然反逆して、人間を支配しはじめたのです。ここにはAIの知性が。人間を超える「シンギュラリテイ」(技術的特異点)の未来が提示されています。ドラえもんの作者の想像力は、時代を先行していました。

著者のつくるドラえもんは、定義を確認することから始めました。のび太にとっての友達であることです。デイープラーニングは、人との関わりを持たないことで進化しました。人との関わりが不得意なのです。著者は逆に、人と深く関わるためのAIを考えました。

HAI(ヒューマン・エージェント・インタラクション)という技術で、人と関わることが得意なAIです。人と関わることが苦手なデイープラーニングを利用しながら、人と関わることが得意なHAIを使えば、さらなるブレークスルーができます。HAIは「弱いロボット」が似合います。完璧なロボットは人を威圧しますが、弱いロボットは、相手の状態を予測して、相手の心を読み取ります。モゾモゾと幼稚な言葉で話かけると、人間が察してくれて感情が通い合うのです。著者は仲間と協力して、ミニドラえもんを開発し、さまざまな社会実験を重ねています。日本の文化を生かしたHAIには、世界が注目しているそうです。「了」

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