本の紹介『水力発電が日本を救うー今あるダムで年間2兆円超の電力を増やせる』竹村公太郎著 2021年2月4日 篠崎正利

竹村公太郎著 東洋経済新報社 2016年8月発行 
著者は元国土交通省河川局長1945年生まれ、1970年東北大学工学部土木工学科修士課程修了、直ちに建設省に入った。以後河川局長などを歴任し、退官するまでに三つのダムを自ら建設している。その間、全国の地形を観察するにいたって、日本人が気候と地形の恩恵を受けてきたこと、また、それを十分に生かし切っていないことを悟った。その思いが彼に主題と副題の内容を書かせた。

彼の視線は100年後の日本を見据えている。現在の人口1億2000万人あまりであるが、人口動態は減少傾向であり、今後は少子化で100年後は6000~8000万人であろうと予測する。この状態でのエネルギー予測をしたのだ。

副題にあるように、今あるダムで現在の2~3倍の電力を生み出せる。しかし、それができていないのは利水ダムと治水ダムの多目的ダムだからだ。利水ダムでは満水にして発電や水道水に利用すれば良い。しかし、治水ダムでは洪水を防ぐためにダムは空っぽにしておきたい。この両立を果たすためには貯水量を満水の半分に維持しなければならない。もったいない話である。河川法は明治に治水目的で作られ、昭和に治水に利水が加わった。さらに平成では治水+利水+環境保全となった。これからは水力を最大限活用するべき時代だ。日本がエネルギー大国であるとグラハム・ベルが看破したのは1898年に来日した時だ。帝国ホテルでの講演でそう述べている。彼は地質学の大家でもあり、多雨と山岳地帯が水というエネルギー源の貯蔵庫だとみなしたのである。

ビルは壊れるが、ダムは半永久的に壊れない。その理由はダムには鉄筋が無い、岩盤上に建設される、壁の厚さが100mもあるということだ。だから新しく建設しなくても小規模改良工事で大きい電力が得られる可能性がある。ダムの建設費の大半は住民対策費なのだ。土砂を貯めなくするには「洪水吐き」という窓を作ればよい。逆調整池ダムを造れば洪水を防ぎながら夜間揚水発電ができる。また、ダムはシャンパングラスの形をしているので、わずかな嵩上げで電力が2倍になる。砂防ダムが全国に無数にあるが、これを活用すれば小水力発電ができ、小さな地方自治体の電力は賄えるし、送電ロスがなくなる。

地形を見ればエネルギーの量が分かり、その土地の歴史も見えてくる。エネルギーが無ければ国が成り立たないのは、世界史でもいえることである。江戸時代の東海道五十三次の絵には木がまばらにしか描かれていないのに気付いただろうか。それは天竜川を含め、街道の木を燃料としてほとんど使いつくした姿である。先の大戦で日本の山はどこも禿山になり、昭和天皇は25年に植樹を開始した。中国では万里の長城を作るために大量の煉瓦を木で焼いて作ったので、華北の山林地帯が砂漠化した。中東も同様である。

話をもとに戻すと、100年後200年後には世界で化石燃料は無くなるが、水は決して無くならない。そもそも水は太陽エネルギーで生まれているのである。日本は恵まれている。日本は将来8000万人どまりの人口だと書いた。その時、水力発電の寄与率は現在とは比較にならないほど大きい。最後の方では小水力発電の重要性について述べ、これが地方の活性化に無くてはならないと主張する。今後はダム運用の改善および、水力発電で作った水素エネルギーの利活用を含めて、100年後の日本を救えると予測した。 完

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