「脳はバカ、腸はかしこい」藤田紘一郎著 2020年11月3日 吉澤有介

腸を鍛えたら脳がよくなった

三五館2012年11月刊
著者は、東京医科歯科大学名誉教授、人間総合科学大学教授で、寄生虫学、感染免疫学が専門。「笑うカイチュウ」や「遺伝子も腸の言いなり」など、多くの著書があります。

生物に最初にできた臓器は、腦でもなく心臓でもなく、腸でした。イソギンチャクやクラゲなどの腔腸動物には脳がなくて、腸が脳の役割を引き受けています。ニューロンと呼ばれる神経細胞が、そこに出現していたからでした。地球上に最初に生物が出現したのは、約40憶年前でしたが、生物に脳ができたのは約5憶年前で、ごく最近のことだったのです。

人類は脳を発達させましたが、歴史の浅い脳はヒトの身体にはまだ馴染んでいません。そのために脳は時々勘違いするのです。恋愛中に周りがよく見えなくなったり、ダイエットを繰り返したりします。一方、腸は遠い昔からの経験を知っていました。人間の健康を保つために、常に大切な情報を送っています。快楽という報酬系を求めて食べすぎる脳の命令を聞かず、反抗して下痢をおこして身体を守るのです。ヒトは大脳皮質を発達させましたが、自分の報酬系だけを満足させたいわがままが、多くの問題を引き起こすことになりました。かえって脳を持たないミミズが、生命循環に大きく貢献していることは良く知られています。

腸は、消化するだけではありません。人間の感情や気持ちなどを決定する物質であるセロトニンやドーパミンは、ほとんどが腸でつくられていました。腸は、病原菌を排除し、必要なビタミン類を合成し、免疫力をつくり、幸せ物質であるセロトニンやドーパミンの前駆体を、バランスよく多量に存在する腸内細菌が脳に運んでいます。私たちの「幸せ」をつくっていたのは腸だったのです。暴走ばかり繰り返している脳のバカとは大きく違いました。

腸内細菌は、免疫力のおよそ70%をつくっています。そればかりか脳の発達や行動まで影響していました。セロトニンはもともと腸内細菌間の伝達物質でした。人間の体内にあるセロトニンの90%は腸にあって、2%だけが腦の中にあります。その僅か2%が人間の精神活動を左右していました。腸内環境の悪化が、うつ病などを促進しているのです。

人間の大腸には500種以上、100兆個以上の細菌がいて、重量は2kg近くもあります。生まれたばかりの赤ちゃんは、なんでも舐めたがります。それは大腸菌を急いで増やすためでした。パンダやコアラは生まれてすぐ土を舐め、お母さんのウンコを食べます。人間でも同じで、著者は土壌菌を毎日飲んで元気です。土食は古くから知られていました。感染症を防ぐ効果があったのです。生まれてすぐアトピー性皮膚炎で悩んでいる赤ちゃんの腸を調べたら、便の中に大腸菌が全くいませんでした。3歳までは、人類発生当時から私たち人間と協調してきた「腸内細菌」を大切にして、感性を豊かに育てなくてはなりません。この時期での英才教育はかえって有害なのです。幼児に知力を与えるのは4歳からにしましょう。

著者は、現代日本の食生活が狂っていると警告しています。その第一は糖質の摂りすぎで、「腸が喜ぶ生活習慣」27項目を挙げて、自身への約束としていました。さらに重大な告白をしています。著者は以前から腸内にサナダムシを飼育?していました。その5代目がいま2か月足らずで10m以上に育って、体調はこの上なく快調だそうです。驚くべし!「了」

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