「ビッグ・クエスチョン(人類の難問)に答えよう」ステイブン・ホーキング著2020年9月20日 吉澤有介

青木薫訳、NHK出版2019年3月刊

車椅子の天才として知られた著者は、本書を執筆中の2018年3月14日、76才の生涯を閉じました。1942年オクスフォードに生まれ、ケンンブリッジ大学大学院に進んだ21才のときに、難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断されます。余命数年との宣告を受けましたが、幸いにも病の進行は遅く、その後の半世紀を生き抜いて、私たち人類にまたとない宝物を遺してくれました。本書では数式を一切使わずに、わかりやすく話かけています。

著者は、つねに人類にとっての最も重要なクエスチョンは何かと考えていました。本書では、まず「神は存在するのか?」から始めています。このテーマは、宇宙物理学者として宗教と科学を結ぶ最前線の問題でした。私たちはどこから来たのか。宇宙はどのようにして始まったのだろうか。宇宙には、どんな意味とデザインが隠れているのか。近年、この惑星も人類もかけがえのないものであることがわかってきました。持続可能な発展のために、人類が今すぐ行動を起こすために、本書では真正面から大胆なメッセージを発信しています。

著者は「神」という言葉を、アインシュタインと同じく人格を持たない自然法則としました。したがって神の心を知ることは、自然法則を知ることになります。自然法則の発見こそが人類の最大の業績なのです。人類は、今世紀末までに神の心を知るかもしれません。

1960年代に入ると、宇宙論のビッグ・クエスチョンは「宇宙に始まりはあるのか?」ということでした。多くの科学者は否定的でしたが、死につつある星が収縮してゆくと自重でつぶれ、最終的に密度が無限大になる特異点が生じて、空間と時間がそこで終わることが、すでにロジャー・ペンローズによって知られていました。そこで著者はそれと同じ議論が、宇宙の膨張にも当てはまるのではないかと気づいたのです。それは1970年、娘のルーシーが生まれて数日後のことで、まさに「我、発見せり」(ヘウレーカ)の瞬間でした。

特異点理論を証明するために発展させていた因果構造理論を、ブラックホールに応用できることを発見したのです。ブラックホールが存在する証拠がまだ観測されていないのに、ブラックホール理論における主要な問題のほとんどを解決していました。非常に大きなものについての一般相対性理論と、非常に小さなものについての量子論を合体させることができたのです。重力と熱力学との間に、深いつながりがあることもわかりました。

宇宙論は黄金時代を迎え、著者は王立協会のフェローとなり、さらに教授に昇進しますが病状は極度に悪化していました。しかし幸運にもコンピュータの支援があり、頬の動きで意思疎通して、音声合成装置で発信できるようになりました。著者は宇宙論についての一般向けの本を出します。その「ホーキング、宇宙を語る」では、宇宙についての一切を記述する完全な理論に、著者らがどれだけ近づいたかを語って予想以上の大きな反響を呼びました。

本書では、さらに宇宙には人間のほかに知的生命が存在するか?タイムトラベルは可能か?人間は宇宙に出てゆくべきなのか?人工知能は人間より賢くなれるか?などの問いに答え、誰もが願う未来に向かってみなで力を合わせようと、強く語りかけていました。「了」

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