「昆虫は美味い」内山昭一著 2020年3月11日 吉澤有介

 新潮選書、20191月刊 著者は、長野県生まれの昆虫料理研究家で、昆虫食についての多くの著書があります。「昆虫料理研究会」を発足して20年。20069月から、阿佐ヶ谷のカフェバー「よるのひるね」で「昆虫食のひるべ」という試食会を始め、すでに200回を超えました。20169月からは高田馬場のジビエ料理店「米とサーカス」でも試食会を開いています。毎回1020人の参加者があり、最近は、若い世代も多く、とくに「虫食い女子」が増殖中だそうです。

 毎年夏になると「セミ会」を開催します。明るいうちに成虫を採り、暗くなったら穴から出てくる幼虫を採ります。近くに借りた調理場で「新鮮」な獲物を賞味するのです。秋は「バッタ会」の季節です。河原でバッタ、コオロギやキリギリスを採りますが、時にはカマキリも混じります。ご馳走はトノサマバッタで、胸や腿の赤身には旨味がたっぷりです。

 著者は故郷信州への想いから、いつでも山の見える日野市落川で暮らしています。小学生の息子を連れて河原でよくザザムシを採りました。これはやはり素揚げが定番で、170℃くらいで揚げるとカリっとしてエビせんべいの味になるのです。カイコにも注目しました。高齢者や障碍者の施設で養蚕をすると、みな夢中で飼育に取り組みます。出来た繭は化粧品メーカーが引き取るので、入居者の自立に役立つのです。そのサナギを繭から取り出し、生きているうちにさっと茹でて噛みしめると、豆乳に似た濃厚な甘みが格別で一石三鳥です。

 コオロギは癖がなく柔らかで食べやすい。ヨーロッパやアメリカでも粉にして、パスタなどに入れています。しかし日本のフタホシコオロギのほうが断然おいしい。徳島大学では高たんぱく健康加工食品として研究中で、やがて徳島のブランドで市販されるでしょう。

 カミキリムシの幼虫は、昆虫食のなかでも絶品です。クリーミーでほの甘く、マグロのトロの味がします。あのファーブルも好んだという記録があります。トレハロースに脂肪やタンパク質が豊富で、古来滋養食として広く普及していました。成虫も中トロの味がします。

 ジョロウグモも食卓に上ります。秋が旬で、体長3㎝ほどになった雌が食べ頃です、揚げてもよく、茹でると枝豆そっくりの味がします。ただ捕まえるとき、噛まれない用心が必要とのこと。著者は、カマキリの卵も大好物です。漢方薬としても有名で、アルミホイルに包んで焼いて醤油をすこしたらすと、茹で卵の黄身の風味がするのです。

 昆虫食の白眉はオオゴキブリでしょう。家の中にいるゴキブリではなく、自然の山の中にいる、本邦最大級のゴキブリです。屋久島での味は絶品で、揚げたてはエビそっくりでした。

サクラケムシも秋の主役です。黒い身体に黄色の毛がびっしりと生えていますが、人間に害はありません。サナギになる直前は、栄養を貯えて一番おいしい季節です。桜の葉だけを食べているので、蒸すとサクラの香りが立ち上ります。また食べる前にしばらく飼育して糞を集め乾燥させると、香り高い虫糞茶が楽しめます。サクラの香りの成分はクマリンでした。

 こんな調子で、著者の昆虫食礼賛が続きます。本命のハチの子やイナゴどころではありません。世界の昆虫食の情報もたっぷりです。いま長野県では「信州学」として、高校生が真剣に昆虫食に取り組んでいます。さすが「昆虫食王国」、地方創生の熱い挑戦でした。「了]

 

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