光文社新書2019年6月刊 著者は、京都大学理学部、同大学院出身の国立天文台准教授で、太陽観測科学プロジェクトの統括を担っています。太陽は、地球にとっての最大のエネルギー源で、この毎年毎日変わらぬエネルギーで、あらゆる生命が繁栄してきました。しかし最近の太陽物理学で、その太陽の変動が、地球や人類、社会のインフラに様々な影響を与えていることが分かってきました。本書では豊富な観測データによって、その恐るべき実態を明らかにしています。
2017年9月、研究者たちは緊張に包まれました。太陽の黒点が急激に大きくなり、11年ぶりに通常の1000倍の巨大なフレア爆発が連続して起きたのです。1000万度に及ぶ高温のプラズマ塊の放出が観測されました。ただこの時は、太陽の約27日周期の自転のタイミングで、プラズマ塊は地球をかすめて去り、幸運にも大事に至りませんでした。黒点やフレアは太陽の磁気活動によって発生します。この40年間は黒点数が減少していたのに、大規模の磁気活動が起きました。太陽の長期変動は、まだ十分にはわかっていないのです。
太陽フレアが観測されると、その翌日に地球で様々な現象が起きています。その正体が「コロナ質量放出」とわかったのは、ごく最近の1970年代のことでした。そのプラズマ塊によって、2~3日後に磁気嵐が起こっていたのです。それらは、宇宙天気の「太陽嵐」と呼ばれて、気象災害と同じく天災の原因と認識されています。太陽フレアによる強烈なX線が地球の電離層を乱す「突発性電離層攪乱」(デリンジャー現象)が起きて、無線通信ができなくなるのです。その対策として、無線通信は電離層に頼らない、人工衛星による高周波の通信へと置き換わりつつあります。しかし、北極圏を飛ぶ航空機は人工衛星を使えないので、いまでも脅威が消えません。また衛星測位システムGPSでも、電磁波の屈折で位置精度に影響を受けます。2017年の大フレアでは、最大十数mの誤差が出ました。100mの誤差もあり得ます。車のカーナビどころか、自動運転では致命的な問題となるでしょう。
1967年の大フレアでは、旧ソ連からアメリカのレーダーに強烈な電波が流れ、あわや核戦争になりかけたこともありました。アメリカ空軍はその後、宇宙天気現象の観測強化に踏み切っています。2003年のハロウィンには、強度Xクラスのフレアが7個発生し、高緯度のスエーデンと南アフリカで大停電となりました。送電網が、磁気嵐の影響を受けたのです。石油やガスのパイプラインも長々と伸びる金物で、水分があると電蝕現象で劣化する恐れがあります。1972年には、北ベトナムの海岸で、多くの機雷が次々に爆発しました。ベトナム戦争当時のこの謎の事件の真相も、のちに太陽フレアの影響とわかりました。
太陽から来る粒子は、高度10㎞を飛ぶ航空機にとっては脅威ですが、それ以上に人工衛星や宇宙基地に及ぼす危険は重大です。2003年には多くの人工衛星に不具合が発生し、探査機はやぶさも損傷しました。2014年大フレアでは、宇宙飛行士の若田光一さんも、一時緊急退避行動をとっています。現代社会のインフラは、太陽の脅威に曝されているのです。
太陽活動と気候変動の関係も注目されています。数万年のデータを遡り、かのマウンダー極小期などの研究も盛んですが、まだ明らかではありません。気になる一書でした。「了」