「アジサイはなぜ葉にアルミ毒をためるのか」 渡辺一夫著、築地書館2017年5月刊2019年5月31日 吉澤有介

著者は、東京農工大大学院を修了した森林インストラクターです。樹木と人のかかわりや、森の成り立ち、樹木の個性とその生き残り戦略などをわかりやすく解説して、「イタヤカエデはなぜ自ら幹を枯らすのか」、「アセビは羊を中毒死させる」などの著書があります。

本書では、その続編として日本列島の山野に自生する19種の樹木を取り上げています。紙数に限りがあるので、特に私たちにも親しい木々のいくつかを拾ってみました。

「ネムノキ」は、河原など、明るく開けた土地にいち早く定着する先駆種です。やせ地に強く、強い光を浴びて早く生長するので、海岸砂丘の防災林にもよく使われてきました。夏の初めにピンクの羽毛のような優雅な花を咲かせます。芭蕉は象潟で、この花に絶世の美女西施を偲びました。その葉は、日が暮れると眠ったように閉じます。幕で暗くしても、日食のときでも眠りますが、単なる明るさだけでなく、人間と同じく起きて眠るという、体内時計による一日のリズム(概日リズム)を持っています。厳しい環境に生きるために、昼間は光合成に勤め、夜は葉を閉じて乾燥を防ぎ、まじめで規則正しい生活を送っているのです。

梅雨になると、青い手毬のような花をつける「アジサイ」は園芸品種ですが、その原種は野生の「ガクアジサイ」です。花の中心にオシベとメシベを持つ小さな両性花の集団があり、その周りを装飾花が額縁のように囲んで虫を呼びます。原産地は日本の伊豆諸島で、それが種分化して、本州に近縁種として広く分布しています。突然変異しやすく、江戸時代に中国を経てヨーロッパに持ち込まれて、品種改良されました。鑑賞用のアジサイは、この装飾花だけを大きくしたものです。「西洋アジサイ」として、昭和初期に里帰りしました。

アジサイの花は、土壌によって色が変わります。酸性で青くなり、アルカリ性では赤くなります。装飾花の細胞にある「液胞」に色素のアントシアニンが満たされており、土壌中のアルミニウムを吸収すると青くなります。アルミニウムは、アジサイの根の生長を妨げる有害物質です。それを液胞に閉じ込めて、クエン酸で錯体にして無毒化しているのです。その美しい葉にも毒があり、料理の飾りに使うと、客が食べて激しい中毒を起こすそうです。

アジサイは、有害な物質を葉に集め、秋に落ち葉として土に返します。茶の木やコシアブラにもある、金属集積植物と呼ばれるその性質は、金やマンガンなどの探索や、カドミウムや放射性物質の吸収除去にも使われています。落葉には、毒を捨てる意味もありました。

「ミヤマハンノキ」は、富士山のお中道や御嶽山の、堆積したスコリアという軽石の裸地に、イタドリなどの先駆植物に守られて2番手として出現します。崩れやすいスコリアにしぶとく定着したイタドリは、ドーナツ型の輪をつくり、その中心の安定した穴にミヤマハンノキが侵入して生育します。根に根粒菌が共生しているので、やせ地でも空中からの窒素を取り込み、そのふんだんに貯めた窒素を、秋の落葉で周りの土壌を肥沃にします。そこに3番手のシラカバやコメツガなどが侵入すると場所を譲って、自身はまた火山のかく乱した新天地を求めて旅立ちます。植物たちは役割を分担して、破壊を創造に変えてゆくのです。

太古からの植物のドラマは、それぞれの個性と生き残りの知恵を教えてくれました。「了」

カテゴリー: サロンの話題 タグ: パーマリンク